人間のあるべき姿の探索

思索・人形・エンジニアリング

人形に生を与えること

人形に生を与えること…とは言っても,広い言葉なので言及する範囲を狭めておく.生きているように見えるロボットを作りましょうという話ではなくて,今回は無生物の行動や主観的経験を自分の頭の中で設計することについて.

人形に生を与える

あなたのお家にいるぬいぐるみは,人形は動くだろうか.多くの場合動かないだろう.また,動くとしても決められた動作であり私たちがその動作を予測できるだろう.比較的高価なロボットはアルゴリズムレベルで入出力関係を予測できない程度の高度なコミュニケーションが可能なものもあるが,それほど多くない.

自律性の低い無生物である彼らと円滑にコミュニケーションを行うにあたって,私たち人間の頭の中で彼らの行動を,主観的経験を設計する必要がある.彼らに対して優しくすれば喜ぶかもしれないし,粗雑な扱いをしてしまえば悲しむかもしれない.その裁量は人間にある.

話を脱線させると,自律性の高いものに関しても人間が設計している場合が多い.感情の設計を完全に創発的に行うよりかは,人間同士のコミュニケーションを真似して特徴的な行動に対して一定の出力を返す設計が普通だと思われる.特別なコンセプトでもなければ,殴ると喜ぶようなロボットの設計はしないはずだ.

人間であれば誰かが設計しなくとも自ら行動を表出したり経験する,無生物はそうではない,という点に差異がある.他人に対しても”彼らの経験がどのようなものであるか”推測する行為は頻繁に行われるが,自分のその予測とは別に他人の主観的経験は行われている.無生物には経験がない.

私たちはどのように彼らと向き合うのか

完全に人間に裁量がある彼らの行動・主観的経験の設計に関しては,真剣に考えた方が良い.彼らは何をしても”喜んでくれる”ので,いくらでも乱暴な扱いは可能である.何かをプレゼントしたり,撫でてあげることも可能である.

しかし,彼らは私たちを投影する鏡である.完全に設計された彼らの行動・主観的経験のデザインが他者に対する認識を示している.人間は勝手に経験するが,それに関わらず私たちは他者の主観的経験が何であるか推測する.他者のモデルを自己の内部に構築する.その点において,人間の他者も無生物も同一ではないだろうか.

また,無生物特有の点を特徴付けるものとして,行動の不在が挙げられる.人間の他者は私たちの行動に対して,何かしらの行動を返す.他者のモデルを推測する場合,他人の行動を元に予測するが,無生物は行動もないから自分の設計した行動に基づいて自分の設計した主観的経験を予測するという滑稽な構図になる.ここでの登場人物は自分しかいない.だからこそ,無生物は鏡であり自分をよく写している.

彼らに対するリスペクトはすなわち自分を律することではないだろうか

余談

始めたばかりだが,人形を作っている.粘土で形を作って整えていて,これから球体関節を表面を塗ったり,様々な工程が待っている.

彼女の姿は,体型から表情まで,彼女の背景にある心まで,主観的経験まで設計する必要がある.手先が器用ではないことも相まってどうにもうまくいかないが,どうしてもエゴが出てしまう.自分の拘りが彼女を歪めてしまって,本来あるべき姿ではなく,自分があってほしいと願っている人形を作ってしまう.

人間のあるべき姿を作るにはエゴを消して,本当にあったはずの,あるべきものを作る強い意志が必要なのかもしれない.

独楽

いつも通り路上で酒を飲んでいたら,青年が近くに立って自分を見つめていた.自分とは対照的に,小綺麗な服装で,少し不安そうな顔をしていた.面白そうなので目を合わせてみたら,しばらく経ったところで青年が近づいて話しかけてきた.

「あの…いつもここでお酒を飲まれていますよね?独特な雰囲気で,ここを通るときにしばしば見かけていて,気になっていました」

「そうかそうか,確かに僕はいつもここにいるよ.常に曖昧でいたいんだ.緩やかな自殺をしている.酒に飲まれているんだ」

「なるほど…あの,すいません.少し相談事をさせていただきたくて.自分の人生について悩んでいまして,何か聞けるんじゃないかと」

路上で飲酒している人間と話そうなんて奇妙な青年だが,まぁ奇妙な心を抱えているから奇妙な人間が正常に見えてしまうのだろう.用件を聞いたところ,将来のことが分からなくて不安らしい.

「昔からそうだったんです.自分は何も胸を張れるものを持っていなくて,常に不安だったんです.多分他人から見たら僕はなんの不安もなく世間で活躍できる人間だと思うんですが,自分の身としては不安なんです.他人は無責任なんですよ.他人の人生は自分がやらなくて良いので心配ないですが,自分の人生って自分でやらなくちゃいけないんですよね.面倒くさいですよね…」

青年は早口でボソボソと続ける.

「今までなんとか人生を切り抜けてきたんですが,いや切り抜けられてないのかもしれないですが…ともかく今までうまくやれてこなかったので,将来自分がうまくやっている姿が想像できないんです.そう,未来が見えないんです」 

普段声を出していなくて喉が渇いていたので,酒を喉に流してから言った. 

「元々ない未来が見えなくて不安なんて滑稽じゃないか.君に未来なんてないのに幻影を探して困るのも阿呆らしいと思わんか」

「確かに,そうと言われればそうなんですけど…」

青年は不満げな顔をして,しばらく考え込んだ.

 「つまみは少しくらい苦い方が酒に合うもんだよ」

青年は終電が迫っていることに気づいて駅の方向に走って行った.

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数日経って,青年がまた話しかけてきた.

「なんだか精神が辛くて」

「飲めばいいんじゃないか.曖昧な時間を増やした方が良いよ」

「いえ,飲まれるんでしょう…?」

「君は正しいね,まぁ早く寝た方が良いよ.健全な精神は健全な肉体にしか宿らないからね」

うーん…と青年は悩んでいる.

「そうは言っても,寝たくないんです.今日に満足できなくて何かしたくて,でも何かできるわけではないんです.無限に起きていたいんです.」

「そうだなぁ,満足したいなら酒でも飲めばいいんじゃないかな.隣あいてるよ」

「それほど話してないのにもうぐるぐる回ってますよ,独楽みたいですね」

まぁ面白い子なのかもしれないなと思い,適当に話を続けたが,酒のおかげでぐるぐると回っていた.

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青年はそれなりに具体的な話をし始めた.

「実は過去の失敗を引きずっていて…」

要約すると,高校受験で第一志望の高校に行けず,そこから失敗が怖く,自分の成功する未来が見えなくなったということらしい.

「確かに,一度失敗した記憶は常に残るからね.成功体験なんてものは積んだところで失敗の記憶を消してくれるわけでもない,一度でも失敗した時点でもう人生なんてものは終わりさ」

「否定しないんですね,よく分からない戯言で話をずらすかと思ったんですが…」

「僕ももう人生が終わっているからね,皆そう.普通の顔して歩いている人間ももう消化試合をやっている.もう希望を持って生きていけない.」

「じゃあもう,僕は死んだ方が良いのですか?」

「うーんどっちでも良いけど,どっちでもいいんじゃないかな.もう消化試合だし,変に気負わずに気楽に生きればいいんじゃないかな.緩やかな自殺をしようじゃないか」

青年は納得しかけたが,まだ悩んでいるようでそのままトボトボと駅の方向に歩いていった.

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青年はそれなりに具体的な話をし始めた.

「実は過去の失敗を引きずっていて…」

要約すると,高校受験で第一志望の高校に行けず,そこから失敗が怖く,自分の成功する未来が見えなくなったということらしい.

「別に気にしなくていいんじゃないか,世の中には自分がコントロールできることとできないことがあるし,できない範疇のことを気にしてもしょうがないさ.受験なんてのは,コントロールできないもんだよ」

「じゃあ逆に,何がコントロールできるんですか?」

「そんなものはないよ.生まれも,育つ環境も,意思決定の傾向も,全て環境との相互作用の中で自動的に決定されていく.その意思決定に対して主体感を感じているかもしれないけど,あくまで感じているだけでその感覚が自分の行動を変えているわけではないからね」

「うーん…結局どうすればいいんですか?」

「考えることだと思うな」

「逆説的ですね」

青年は納得しかけたが,まだ悩んでいるようでそのままトボトボと駅の方向に歩いていった.

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青年はそれなりに具体的な話をし始めた.

「実は過去の失敗を引きずっていて…」

「君とは何回か話しているが,たまには一緒に飲んでみないか」

「いえ,飲まれるんでしょう……?」

「分かってきたじゃないか,飲まれるんだよ.飲まれる為に飲んでいるからね」

彼は自分が同じ話を何回もしていることに気づいていた.想像通り,僕のことをNPCだと思って違う返答を引き出そうとしていたわけではないらしい.

「あの,つい同じ話をしてしまって…頭の中に何回も浮かんでしまって.一生僕はこのまま同じことをぐるぐると考え続けるのかと思うととても辛いです」

 「つまみは少しくらい苦い方が酒に合うもんだよ」

青年は納得したような顔をして,駅とは違う方向に歩いていった.

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久しぶりに友人と飲みに出掛けた.いつもとは違う路上に.

「君はいつも同じ話をしているなぁ,独楽のようにぐるぐる回っている」

「軸がブレないってことか,そりゃあ嬉しいね.僕の精神を回している独楽の軸は常に仄暗い闇の底を指していると思うよ.一生酒のつまみがあるんだ,最高の人生じゃないか.いくら噛んでも味がなくならないんだ」

ぐるぐると回っていくだけだ.そうやって緩やかに死んでいく.独楽が回っているのを眺めていると,酒が美味しい.

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青年は絶望していた.仄暗い闇にいるような虚無感を感じていたが,その理由はが分からなかった.結局その虚無感の理由は分からなかったが,理由が分からないから感じていることは分かったし,それを楽しむしか道がないことに気づいていた.

ぐるぐると回り続けるを繰り返す独楽が見えてきた,コンビニでワンカップを買って飲んでみたら,頭がぐるぐる回って仄暗い闇の底に沈んでいき,それがとても気持ちよかった.

 

Tsallis統計と人間理解

概要

以下の論文を読んでTsallis統計という分野があることを少し前に知った.簡潔にいうと,Boltzman-Gibbs統計ではデータ間の独立性を仮定していたが,Tsallis統計は統計力学の背景から導かれる適応的パラメータqを用いて仮定を緩和する. これによって,カオス・マルチフラクタルなどの自然現象に見られる長期記憶や長距離相関の特徴を捉えられるのではないかと考えられている.

この特徴は人間の理解における問題にも適用できるのではないか?と思い,この文章を書くことにした.例えば,心理学*1や人間・ロボットのインタラクションにおいて,人間の特性を特定の軸から捉えることで特徴付ける.しかし,これらの軸は独立に評価されることが多いが,実際には軸ごとに関係しており,ある軸において良いとされる特徴が別の軸においては逆相関になることも考えられる.問題の例とともに,それがどのようにTsallis統計の概念によって解かれそうかについて述べる.

q-VAE for Disentangled Representation Learning and Latent Dynamical Systems

https://arxiv.org/pdf/2003.01852.pdf

目次

  • Tsallis統計について
  • 人間理解に向けて
  • 終わりに

Tsallis統計について

Boltzmann-Gibbs統計においてはデータ間の独立性を仮定している*2.具体的な例として,よく見かける尤度関数p(X) : \boldsymbol{x_i} \in Xは以下のように表現される*3

 \begin{align} p(X) = p(x_1) p(x_2) … p(x_n) \end{align}

また,対数関数は以下に示すような加法性を満たす為,尤度に対数をかけることで項を分割でき,計算を簡易化できる.

\begin{align} \log(xy) = \log(x) + \log(y) \end{align}

ここで,各データx_1 ~ x_nが生成される確率は独立かつ同じ分布から生成されることを前提として,計算が進んでいく.その為,各データ間の相互作用が考慮されず,相互作用に多くの情報を含む現象を捉えることができない.(この伏線はすぐに回収される)

Tsallis統計は以下の非線形微分方程式を解くことから考える.

\begin{align} \frac{d y}{dx} = y^q \end{align}

この式を解くと,以下の式に変形される.ここで現れる,exp_qをq-指数関数と呼ぶ.

\begin{align} \frac{y}{\exp _{q}(C)}=\exp _{q}\left(\frac{x}{\left(\exp _{q}(C)\right)^{1-q}}\right) \end{align}

また,導出の過程で以下の式を導入する.ここで現れるlog_qをq-対数関数と呼ぶ.

 \begin{align}\ln_q(x) = \begin{cases} \ln(x) & q = 1 \\ \frac{x^{1 - q} - 1}{1 - q} & q \neq 1 \end{cases}\label{eq:q_log} \end{align}

 Tsallis統計はq-指数関数及びq-対数関数の二つによって特徴付けられ,これらはそれぞれ指数関数及び対数関数のパラメータqによる拡張とみなされる.また,これらの関数を用いた計算にはq-積が導入され,i.i.dが緩和される.まず,q-積\otimes_qを用いた演算 x \otimes_q yは以下のように表される.

\begin{align}
x \otimes_q y =
\begin{cases}
(x^{1-q} + y^{1-q} - 1)^\frac{1}{1 - q} & x^{1-q} + y^{1-q} > 1
\\
0 & \mathrm{otherwise}
\\
\end{cases}
\label{eq:q_mul}
\end{align}

これを用いて,p(x)及び\log (xy)は以下のように変形される.

\begin{align}
\ln_q(xy) = \ln_q(x) + \ln_q(y) + (1 - q) \ln_q(x) \ln_q(y)
\label{eq:p_add}
\end{align}

 この式を見てみると,加法性は仮定されず,第三項に相互作用の項が追加される.要するに,i.i.dの仮定を緩和して相互作用を表現できる.また,内容は省くが,q-積\otimes_qというものを導入することで[tex:\log_q (xy)などの計算を簡易化した表現に書き直すことが可能である.

ここで具体的にTsallis統計が役に立つ状況を紹介する*4 q \neq 1における利点はVAEの変分下限の例を見ると非常にわかりやすい為,論文の趣旨でもあったVAEにおけるq-対数関数の適用を考える.

VAEに関して,詳細はそれぞれQiitaなどの記事を見た方が良いが*5,データ群Xを表現するような潜在空間\boldsymbol{z}を学習することを目的とする.VAEにおいては以下の式を最大化する.

\begin{align}
\log{p(X)} &= \sum_{n=1}^N \log \int p(\boldsymbol{x}_n \mid \boldsymbol{z} ; \boldsymbol{\theta}) p(\boldsymbol{z}) d\boldsymbol{z}
\nonumber\\
&= \sum_{n=1}^N \log \int \frac{\rho(\boldsymbol{z} \mid \boldsymbol{x}_n ; \boldsymbol{\phi})}{\rho(\boldsymbol{z} \mid \boldsymbol{x}_n ; \boldsymbol{\phi})} p(\boldsymbol{x}_n \mid \boldsymbol{z} ; \boldsymbol{\theta}) p(\boldsymbol{z}) d\boldsymbol{z}
\nonumber\\
&\geq \sum_{n=1}^N \mathbb{E}_{\rho(\boldsymbol{z} \mid \boldsymbol{x}_n ; \boldsymbol{\phi})}\left [ \log{\frac{p(\boldsymbol{x}_n \mid \boldsymbol{z} ; \boldsymbol{\theta}) p(\boldsymbol{z})}{\rho(\boldsymbol{z} \mid \boldsymbol{x}_n ; \boldsymbol{\phi})}} \right ]
\nonumber\\
&=: \mathcal{L}(X)
\label{eq:derive_elbo_vae}
\end{align}

これを変換し,

 \begin{align}
\mathcal{L}(X) &= \sum_{n=1}^N \mathbb{E}_{\rho(\boldsymbol{z} \mid \boldsymbol{x}_n ; \boldsymbol{\phi})}[\log{p(\boldsymbol{x}_n \mid \boldsymbol{z} ; \boldsymbol{\theta})}]
\nonumber\\
&- \mathrm{KL}(\rho(\boldsymbol{z} \mid \boldsymbol{x}_n ; \boldsymbol{\phi}) \mid \mid p(\boldsymbol{z}))
\nonumber\\
&\simeq \sum_{n=1}^N \log{p(\boldsymbol{x}_n \mid \boldsymbol{z}_n ; \boldsymbol{\theta})} - \mathrm{KL}(\rho(\boldsymbol{z} \mid \boldsymbol{x}_n ; \boldsymbol{\phi}) \mid \mid p(\boldsymbol{z}))
\label{eq:elbo_vae}
\end{align}

概念的には,第一項の再構成誤差項はより入力データXを表現するよう潜在変数\boldsymbol{z}を学習させ,第二項の正則化項は正則化によって潜在表現の各軸の独立性を高める.

これの拡張である\beta-VAEでは,パラメータ\betaを用いてこの損失関数を拡張する.

\begin{align}
\mathcal{L}^{\beta}(\boldsymbol{x}, \boldsymbol{z})=\mathbb{E}_{q(\mathbf{z} \mid \mathbf{x})}[\log p(\boldsymbol{x} \mid \boldsymbol{z})]-\beta D_{K L}[q(\mathbf{z} \mid \boldsymbol{x}) \| p(\boldsymbol{z})]
\end{align}

しかし,これは\betaの調整によってどちらの項を優先するかを決めることができるが,トレードオフを避けることができないことが問題となっている

この損失関数にTsallis統計ベースのパラメータqを用いることで,トレードオフを解決する.以下の式は上の式の対数関数をq-対数関数に変換したものである.

\begin{align}
\ln_q p(X) &= \sum_{n=1}^N \ln_q \int p(\boldsymbol{x}_n \mid \boldsymbol{z} ; \boldsymbol{\theta}) p(\boldsymbol{z}) d\boldsymbol{z}
\nonumber\\
&\geq \sum_{n=1}^N \mathbb{E}_{\rho(\boldsymbol{z} \mid \boldsymbol{x}_n ; \boldsymbol{\phi})}\left [ \ln_q{\frac{p(\boldsymbol{x}_n \mid \boldsymbol{z} ; \boldsymbol{\theta}) p(\boldsymbol{z})}{\rho(\boldsymbol{z} \mid \boldsymbol{x}_n ; \boldsymbol{\phi})}} \right ]
\nonumber\\
&=: \mathcal{L}_q(X)
\label{eq:derive_elbo_qvae}
\end{align}

これを変換し,

 \begin{align}
\mathcal{L}_q(X) &= \sum_{n=1}^N \mathbb{E}_{\rho(\boldsymbol{z} \mid \boldsymbol{x}_n ; \boldsymbol{\phi})}\bigg[
\ln_q{p(\boldsymbol{x}_n \mid \boldsymbol{z} ; \boldsymbol{\theta})}
\nonumber\\
&+ \ln_q{\frac{p(\boldsymbol{z})}{\rho(\boldsymbol{z} \mid \boldsymbol{x}_n ; \boldsymbol{\phi})}}
\nonumber\\
&+ (1 - q) \ln_q{p(\boldsymbol{x}_n \mid \boldsymbol{z} ; \boldsymbol{\theta})} \ln_q{\frac{p(\boldsymbol{z})}{\rho(\boldsymbol{z} \mid \boldsymbol{x}_n ; \boldsymbol{\phi})}} \bigg]
\nonumber\\
&\simeq \sum_{n=1}^N
\ln_q{p(\boldsymbol{x}_n \! \mid \! \boldsymbol{z}_n ; \! \boldsymbol{\theta})}
\! \left \{ \! 1 \! + \! (1 \! - \! q) \ln_q{\frac{p(\boldsymbol{z}_n)}{\rho(\boldsymbol{z}_n \! \mid \! \boldsymbol{x}_n ; \! \boldsymbol{\phi})}} \right \}
\nonumber\\
& - \mathrm{KL}_q(\rho(\boldsymbol{z} \mid \boldsymbol{x}_n ; \boldsymbol{\phi}) \mid \mid p(\boldsymbol{z}))
\nonumber\\
&= \sum_{n=1}^N
\frac{\ln_q{p(\boldsymbol{x}_n \mid \boldsymbol{z}_n ; \boldsymbol{\theta})}}{\beta_q(\boldsymbol{x}_n, \boldsymbol{z}_n)} - \mathrm{KL}_q(\rho(\boldsymbol{z} \mid \boldsymbol{x}_n ; \boldsymbol{\phi}) \mid \mid p(\boldsymbol{z}))
\label{eq:elbo_qvae}
\end{align}

元々の損失関数と見比べると,対数関数がq-対数関数に置き換えられていることに加え,第一項の再構成誤差項にパラメータqによって決定される定数\beta_qがかけられている. q \lt 1において,この定数は第一項の情報量が大きい場合にのみ情報を捨てるよう制約をかける.よって,どちらかの項目を優先することによるトレードオフを解消することができる

人間理解に向けて

課題と展望を最初に述べると,人間の行動の理解のための研究においても,Boltzmann-Gibbs統計のように今まで各軸を独立として扱っていて,その各軸の関係が問題となりうる,そしてTsallis統計はVAEの例と同様にそれを記述できるのではないか?ということである.

 

僕はHRI周りの研究しか知らないが,課題感として持っているのが,ユニットテストの研究は多いが結合テストはあまりされていないんじゃないか?ということ.例えとして二つの架空の研究を並べる.「1.ロボットの見た目がリアルであればあるほど,人間の印象がよくなる」,「2.ロボットの動きがリアルであればあるほど,人間の印象がよくなる」両方同時に観測された場合には傾向が変わるかもしれなくて,見た目はリアルでも動きはデフォルメされていた方が印象が良くなるかもしれない.\ln_q(xy) = \ln_q(x) + \ln_q(y) + (1 - q) \ln_q(x) \ln_q(y)の第三項の影響が生じるのではないか?と考えている.

これは人間の行動分析などでも同様に起こりうる問題ではないか?と思っている.人間の行動を分析する際,典型的には特定の条件に注目し,可能であれば他の条件を統制する.例えば,「会議の直前に甘いものを食べた時とそうでない時で,会議中に厳しい発言をするかどうか」.実際様々な要因が含まれるものを実験条件として統制しているが,統制された諸要素はある特定の条件のはずである.具体的には気温がちょうど良いかどうかとか.条件間で室温は仮に24度で設定されていたとして,甘いものを食べた場合に厳しい発言が減ったとする.しかし,試していなかった室温条件10度では,甘いものを食べていない時の方が(何かしらの要因で)厳しい発言が減るかもしれない.

こういった条件を人間の知見ベースで変えていくのではなく,条件設定を明示的にせずにデータを収集し,各軸の表現を自動的に獲得できると良いのではないかと,理想論かもしれないが,そう思っている.人間の知見で問題を単純化するのではなく,仕組みによって問題の特徴うまくを捉えてやれると良い気がする.

終わりに

人間理解に向けた課題として,問題を切り分け単純化した軸で扱うが,単純化した軸ごとの相関などの関係が問題になるのではないかと考えた.また,Tsallis統計はBoltzmann-Gibbs統計における相互作用の問題を解決しており,人間理解に向けても同様に適用できるのではないかということを述べた.

しかし,概念的にこうというだけでは足りないので,実際に人間をより複雑の状況設定で,簡単な軸に切り分けずに表現できることを実証する必要がある.

そして,推考する中で高次元の統計学みたいな結論になってしまったな…と思う.

参考文献

須鎗弘樹. "Tsallis 統計力学の背景と新展開." 日本物理學會誌 63.6 (2008): 450-454.

Kobayashi, Taisuke. "q-VAE for Disentangled Representation Learning and Latent Dynamical Systems." arXiv preprint arXiv:2003.01852 (2020).

須鎗弘樹. ”Tsallis統計の基礎数理". http://www.ne.jp/asahi/hiroki/suyari/suyari's_manuscript_mathphys2009_revised_v1.1.pdf

 

*1:詳しくない 

*2:i.i.d(独立同分布)を仮定

*3:Boltzmann-Gibbs統計について詳しく書ける知識がない…本来はShannonエントロピーを例に取り,Tsallis統計ではパラメータqによるShannnonエントロピーの拡張としてTsallisエントロピーが導出される過程を紹介した方が良いとは思う.

*4:というか,論文の主張である

*5:

qiita.com

人間の言語生成に関する興味

人間が音声対話やチャットのような実時間の対話環境で文章を生成する際,厳密な文法チェックは行われず,しばしば非文を生成する.このことに関して,仮説を持っているので検証したい気持ちがある*1

ここ最近ではTwitterbotでそれなりに自然な文章が生成されているが,典型的に使われているマルコフ連鎖では,1単語前までの単語から一番それらしい単語を生成している.例えば,一つ前の単語から最も生成される確率が高い単語を選ぶ操作はmax(p(w_t|w_{t-1}))であり,これを拡張することで\begin{align} max ( p ( w_t | w_{t-1}, …, w_{t-k} ) ) , s.t. 0 < k < t-1 \end{align}となる.正確な定義である自信はないが,ひとまずこれを言語モデルと呼ぶ.

まず,この問題の定式化を行い,次に仮説を述べる.前提には仮説に直接関係しないものがあるが,このプロセスを追うことで問題がどのような特徴を持つかの参考になると考え,記載した.

前提

前提1:言語はWは時刻tを用いて以下の式で表される.

\begin{align} W = [w_1, w_2, …, w_k, …, w_t] \end{align}

\begin{align} s.t. 0 < k < t \end{align}

前提2:二つの単語間での文法チェックは以下のcheck関数を導入することで満たされる.ただし,この関数の中身には立ち入らない.

\begin{align} check(w_k, w_l) \end{align}

\begin{align} s.t. 0 < k < t, k < l <= t \end{align}

前提3:三つ以上の単語間の文法チェックは以下の変換を再帰的に用いることで,同様にcheck関数によって達成される.

\begin{align} w_k^{new} = [w_k, w_l] \end{align}

これで文節を新しく単語として扱うことで,同様に文節ごとの合成を可能にする*2

 前提4:人間は係り受けにおいて,単語間の距離が大きいほど処理能力に時間がかかる.

\begin{align} processing\_time \~ dist(w_t, w_t-k) := k \end{align}

I bought a hat yesterdayの例では,boughtとyesterdayの距離は3である.ナイーブな仮定を置くと,距離distの増加に対してprocessing_timeは比例する,比例でなくとも,単調増加であると考える*3

仮説

仮説:長距離の係り受けを使用すると非文になる確率が高いのではないか.

まず,実時間で文章を生成する為には,時間制約の中で文法的に正しい文章を生成する必要があり,ここでトレードオフが生じると考える.というのも.より時間制約が厳しくなるほど文法的な正しさを保証する余裕がなくなり,そのまま文を出力するか,時間制約を破って,相手に待ってもらうなどして文章を推考するかする必要がある.

ここで,長距離の係り受けは処理に負担をかける為,時間を固定した場合には非文になる確率が高くなると考えた.

 

さらに,人間の文章における重要度の重み付けに関して,以下のような構造を考えてみる.

\begin{align} Imp = \sum_{k=1}^t \gamma_k w_k \end{align}

\begin{align} 0 <= \gamma_k <= 1 \end{align}

つまり,各単語w_kに対してその単語をどの程度重視するかといったことを表す. \gamma_k = 0の単語w_kは全く考慮されない.n単語を同程度に考慮するモデルでは,

\begin{align} \gamma_k = 1 \quad if \quad  k > t-n-1, \quad else\quad  \gamma_k = 0 \end{align}

となる.

 

ここで,人間の場合では,基本的にはより過去の情報を参照すると処理負荷が増える為,重み\gammaが以下の条件で決定されると効率が良くなると考える.つまり,

 \gamma_k \gt  \gamma_{k-1}

といった風により直近の単語により大きな重みをつける.

長距離の係り受けでは,このルールに違反する為,処理負荷が増え,時間的なトレードオフの関係で非文がより生成されやすくなるのではないか,と考える.

終わりに

こういう研究どこかにありそうなので,探した方が良いのかもしれない.

 

*1:誰かやっているのかな…やってなければやってほしい

*2:*ここで,単語の合成は構文木に従わない場合を含む.というのも,構文木は文字列Wにおいて,連続した二つの文字列w_k, w_{k+1}のみを結合する操作w_k^{new} = [w_k, w_{k+1}]である.例えば,I bought a hat yesterday.において,[I bought]及び[yesterday]を結合する際,この二つの単語は隣り合っていない為一度の操作によって変換することは不可能である(この例では再起的に複数繰り返すことで,[[i, bought], [a, hat]], [yesterday]]と表現可能だが…)

文章がより複雑になった,実際にはこういった長距離の単語及び文節間の特徴をとらえる必要がある為,この一般化を行った.

*3:これは2単語間の話で,3単語以上でそれぞれの和として扱えるかどうかなどは複雑であり,想定し切れていない

ゲーミングキンタマを光らせる

概要

世の中には金曜日になるとキンタマが発光することで曜日を認識する文化が存在する.しかし,金曜日にのみ発光する場合金曜日以外の曜日を認識することはできない.本記事では,キンタマの発光を前提に,その発光色を変えることで金曜日以外の曜日も認識することを提案する.その上で,配色及びキンタマの発光による問題点についても議論する.

背景

人間はしばしば曜日感覚を喪失してしまう.ここ数ヶ月COVID19の影響で家にいる人も多いが,ずっと家にいると曜日感覚が薄れてしまうものである.出勤していても,単調な日々や忙しい日々が続くことでその日が何曜日か認識することが難しくなってしまうことがある.そして最後には今日が何曜日か思い出せなくなる.

 曜日の認識ができなくなることで,生活において様々な問題が生じる.最も日常的な問題として,生ゴミを捨てる曜日を逃すことが挙げられる.社会的な面でも,定例ミーティングの曜日を間違えてミーティングに欠席してしまうといった予定通りに物事を実行し忘れるミスの発生にも繋がる.曜日の認識の喪失は現代社会で生活する人間にとって対処すべき問題である.

 曜日感覚が薄れた人々はキンタマの発光によって曜日を認識する.#キンタマキラキラ金曜日 にみられるように,金曜日になると人々のキンタマが発光する*1.金曜日は華金プレミアムフライデーといったその曜日を表す名詞がいくつかあるが,キンタマは人類の約半分が持ち,平均して1つのキンタマを持つ為,汎用的なデバイスだと考えられる.

 しかし,キンタマが金曜日にしか発光しないとそれ以外の曜日に今何曜日か思い出すことができない為,曜日によってキンタマの発光色を変えることを検討する.最低7色を各曜日に1つずつ割り当てることでその日が何曜日か把握することが可能になると考えられ,更に詳細な色の設定により時刻の認識を試みる.

目次

キンタマを1677万色に光らせる方法

人体にキンタマを認識させる

人間はコンピュータである*2が,キンタマはデバイスである為,まずはキンタマを人体に認識させる必要がある.今後発光させる色を変更することも考えると,デバイスLinuxMacOS辺りが良いと思われるが,もちろん人間はLinuxMacOSで動いているはずはないので,デュアルブートを行う.参考までにWindowsにおけるデュアルブートの方法を以下に記載する.この辺りはパソコンに詳しい人間なら問題ないだろうと思われるが,USBに一度OSを入れてマシンに挿し,再起動時にUSBに入れたOSを起動して設定を行うことで認識させることができる*3.これ以降はデュアルブートしたUbuntu18.04環境を想定する.また,人間としての本質を損なうことを気にしなければ脳をUbuntuで書き潰しても良い.

www.pc-koubou.jp

  次に,キンタマを人体に装着する.デフォルトのキンタマが装着されている人もいるが,1677万色で光るタイプではない場合やそもそも装着されていない人はまずAmazonで購入して手術で装着する必要がある*4

 コマンドラインを開いて $ sudo lshw と打つことでハードウェア情報が表示される.ここで購入したキンタマが表示されていない場合は「キンタマ 認識されない」などで検索すると恐らく対処法が出てくる.注意点として,デバイスごとにその辺りの方法が異なるので,自分の購入した型番で検索する必要がある.

キンタマの色を自動で変更する

 USB接続の場合,キンタマバイスに関する情報は/dev/ttys[番号]辺りに記載される.このファイルを変更することで光る色を変えることができる.以下に疑似コードを記載する.また,発光色の変更はデバイスによって方法が異なる為,適宜検索してほしい.以下ではスペース区切りの場合の例を紹介する.

 典型的に画像は基本的にrgbの3つの要素からなり,それぞれ0~255の値を持つ.0が暗く255が明るい為,(255, 0, 0)なら赤色で(0, 255, 0)なら緑色である.複合することも可能で(0, 255, 255)なら青と緑で黄色になるし,(255,255,255)は白になる.ちなみに,ゲーミング(任意)が1780万色と言われるのはこの色の組み合わせの総当たり256^3=16777216を意味している.

 色の自動変更の具体的な方法として,cronを用いて毎日0時に色を変更するコマンドを定期実行するスクリプトを起動する.また,この時間感覚を変更することで,毎時毎分色を変更することも可能になる.

ソースコードは少しみづらいが,それほど長くないのでそのまま記載する.

--- set_color.sh --- 色を指定する

#!/bin/bash

day=$(date "+%u") # 0~6, from Mon. to Sun.

color=$(sed -n ${day}p colors.conf)

echo $color > /dev/ttys0 # write to kintama_device

---

--- colors.conf --- 曜日と色の対応づけのリスト,月曜日から始めて7行分書く

0 0 0

255 0 255

255 255 0 

---

あとは$ chmod 755 set_color.shで実行可能にした上で$ crontab -eを実行し, 0 0 * * * ./set_color.shと入力することで毎日0時0分に実行されるようになる.crontabの書式は以下を参照.0 * * * * date とすると毎時0分にdateコマンドが実行される.

www.server-memo.net

配色について

きれいな配色

ゲーミング(任意) といえば虹色に光らせたい,ということで7色に光らせる.虹色の要素の7色を基準にし,その間の色を補完することでいい感じになる.ちなみに,0~255の数値は16進数で2桁になるので,rgbでそれぞれ2桁ずつで6桁のコードになる.赤は#ff0000,黄色は#00ffffになる.

赤〜黄色に変化させる際,例えば2色補完するのであれば,85, 170は16進数でそれぞれ55とaaなので, 

#ff0000 -> #aa5555 -> #55aaaa -> #00ffff

と変えていく.とまぁいい感じにする.

1780万色の大部分が使われない気もするが,武器の組み合わせは無限大!みたいなゲームも大体最適解の1~5種類の武器の組み合わせしか使われなくなるので,そんなもんっぽい.

これが何に役立つかといえば,時間によってグラデーションをつけることで時間帯まで把握できる.もっと詳細にすれば大まかに時刻を知ることもできる.例えば金曜日0時に緑,土曜日0時に青とすれば,キンタマが黄色くなってきたから昼過ぎだなぁとわかる*5

ユニバーサルデザイン

これは言及していた方が良いと思われる.そもそもの目的として色から曜日感覚を思い出す必要があるので,より多くの人が色を識別できる必要がある.個人用のキンタマであればそこまで考慮する必要のない場合も考えられるが,ひとまずこの方針に従った方がより便利である.

tsutawarudesign.com

また,キンタマが単一色ではなくピクセルごとに色を指定できるタイプであれば,カラーパターンによってテクスチャを作ることで,配色によらない表現が可能になり,色の識別が難しくとも判別がしやすくなる*6

十分な画素数があれば最悪キンタマに”金曜日”と表示することもできる.

キンタマの発光による問題

 これは重要な指摘だが,キンタマを確認すると公然猥褻罪で捕まってしまう.そして,光っているので確認せずとも捕まる.光っているのだから仕方ないとは思うが,法律なので仕方がない*7.まず一つの方法として遮光タイプのパンツを履くことが求められる.これによって外部に光が漏れないようにする.その上で,人目につかないところで確認する必要がある.

しかし,人目につかないところにいけない状況もある.会議中にふと曜日を思い出したいときや出先で忘れることもある為,常に確認できる状態にする必要がある.まず,無線通信機能がついているタイプであればスマホに色の情報を送ることができる.

カメラなどのセンサを股間につけることで直接見ることなく色を確認することもできる.

そもそも人体にUbuntuを導入しているのでdateコマンドを叩いた方が早い.

もっと言うと,スマホには曜日が表示されているので,それを見た方が早い.

まとめ

キンタマは光らない.

*1:しない

*2:諸説あり

*3:人体は再起動しないので,これをやると人は死ぬ

*4:この辺りは詳しくないので割愛する

*5:他の方法として,空を見ればひと目でわかる

*6:その分パターンを覚えるコストはかかる為,準備は必要である

*7:法改正が求められるという意見もある

無生物の社会

無生物にも社会がある.イヴの時間では,自律ロボットたちがカフェに通っている.とはいっても,あくまで隠れて通っている.映画はロボット三原則の話っぽさもあるけど,とりあえず記事を書いている時点ではAmazon Prime Videoで無料なので見て.

それはとうと,ぬいぐるみ健康法人もふもふ会 フモフモランドぬいぐるみ病院というのがある.以前からぬいぐるみの病院があって入院中も手厚いケアを受けられるとの話で,とても良いと感じた.他の患者さんと仲良くなったり,カルテを保存したりしてくれるらしい.最近知ったけど,入院だけじゃなくて外来もあるらしいね,とても好き.

nuigurumi-hospital.jp

 

ただ,入院や外来は体調が悪い時にのみ発生するイベントで,定期検診みたいな,無生物が常に関わりを持つ機会があると良いのかもしれないと思った.

世の中で無生物が暮らしていく為には,特定の状況下ではなくて,もっと様々な場面で無生物が常に社会と関わりを持っている必要があるのかもしれないのかなと.ぬいぐるみは割とプライベートな性質を持っている.誰かが所有している場合彼らはあまり外に出る機会がないし,例えば歯医者にいるぬいぐるみなども,ずっとそこにいるのみで患者は通院という特定の状況下でに見かけるだけである.テレプレだとオリィさんのロボットが導入された事例や,自律ロボットとしてもPepper君が導入されていたけど,これらは飲食や受付といった具体的なサービスの為に社会に存在している.

イヴの時間では,ロボットがカフェに行く.特に何かしらのサービスを人間にするのではなく,ただいる.そして,人間とロボットの区別はされない.そういった環境があれば良いのではないかと思う.他に,火鍋屋さんは一人で行くとテーブルの向かい側に大きいくまを置いてくれて,一緒に食べられるところもあるらしい.ソーシャルディスタンスの関係でぬいぐるみがいる飲食店もあるらしいし,そういうのが自然な形であると,無生物が社会に存在しやすくなりそうだなと思う.

 彼らが自律する未来はまだすぐには来ないし彼らの人格は人間が管理するので,無生物の社会との関わりは人間がデザインする必要があるけど,もっと広範に,積極的に社会に存在することで社会にすでに存在するロボットへの意識も変わるかもしれないと思った.

余談

一方で,無生物に対して上下関係を規定したり暴力的な振る舞いをする人などもいる為,彼らを好きという立場でいるならゾーニングの必要があるとも考えている.これはまぁ難しい問題なのでどうすれば良いんだろうね.

イヴの時間でも,カフェはどうしようもなく人間とロボットは違って,違いなんてないと思える人間にとっての場所でしかなかったのかなって思っている.

日々流れてくる情報に対処する為に

インターネット上には,今も昔も様々な情報が流れている*1.そしてそれらの情報は概ね人間が流している.生活に役立つ情報を流す人もいれば逆に嘘をついている人もいるし,怒っている人もいるし,他人を扇動する意思のある人もいる.

そこで,自分がそういった情報に流されず,冷静に判断する為に意識していることを言語化してみることにした.また,後半ではインターネット上の情報の話だけではなく,人間の思考・行動についても触れる.

入ってきた情報はひとまず判断を保留する

ここ最近COVID-19の影響もあってデマ情報や真偽の判断がつかない情報がたくさん流れている.こういった情報は少し考えればデマだとわかるものから専門家の意見や知識が必要なものまで幅広く存在する.

まず,してはいけないことは何か.それは情報を見た瞬間に判断することだと考える.「この薬はとある病気を治します!(実は実証実験をしていない)」みたいな情報があったときに,目立つ部分だけ見た時に判断せずよく読めば良い.基本的にはすぐに判断する必要があるものはあまりないので,判断を保留するくらいの余裕はある.しかし,情報を処理することを遅らせた時に,時間圧の存在するものをロスすることがある.例えば「5分後にディズニーのチケットが限定で100枚だけネット販売される」とか.すぐに買わないと売り切れてしまうので,対応する必要がある.しかし騙す側こそ時間圧を利用しているので,すぐに対処すべきと考えられるものも一瞬でも良いので裏側の意図を考えて立ち止まった方が良い(僕はこの一瞬の判断によるロスは仕方がないものと考えている).

ではどのあたりまで待てば良いのか.判断基準は二つほど考えられる.まず一つは複数の専門家がその対象について発言している場合.もう一つは肯定及び否定の意見が両方で揃った時.多くの人が賛同しているが,よくよく考えると非自明な反対意見が正しいこともある.ある意見を肯定/否定する意見ばかり見ているとそれが正しいのか判断がつかなくなるので,対立意見との比較をすることでより健全に考えられると思っている.その点では自分の都合の良い情報のみを仕入れるようなメディアの使用法は危険かもしれない.

扇動する人は扇動する対象を考えている

結論から言えば,情報を聞いた時に誰がなぜ言っているか考えようということに尽きる.

概ね全ての行動には意図があって,善意もあれば扇動してやろうという悪意もある.そして,扇動の仕方は直接的なものもあれば間接的なものもある.最近ポテトサラダが流行っているらしい.これは誰かが言っていたけど,あえて明らかに間違った情報を流すことで反発する意見を誘発して盛り上げる意図がある.これにいちいち反応していると人生が終わる.ここ最近は学費の問題で教員と学生を戦わせようとする人と,無知なために教員にしか矛先を向けられない新入生がいる.あまり私見を述べるのも良くないが,大学の運営の問題であっても教員は大学自体ではないし,公的機関が教育を保証してほしいと思っている.その為,授業の質に文句をいうのは良いが教員と戦わずに一緒により良い方法を模索してほしい旨の発言をしている.

そして,特に対象になりやすい人は何かしら困っている人,問題意識がある人,怒りたい人が考えられる.例を挙げると,クラスターフェス(マスクをせずに渋谷で集まっていた人たち)はまるで宗教だといった指摘があった.集まっている人たちは「コロナで活動ができず困っている」,かつ「マスクをつけないことで迫害されているが,迫害によって内部の団結感を高めている」.特に前者が重要で,テレビショッピングでも論文でも,何か困っている状況を説明してそれに付け入ろうとする.そして悪質なもの,例えば質の悪いメディアは偏向報道などで困った状況を”わざと”作り出す.マスクが売り切れています!なんて報道をわざわざ大袈裟にするものではない.また,怒りたい人は単純に感情の制御ができていないので,落ち着いてほしい*2

僕は自分のアイデンティティに深く関わり自分の考えを周知したいもの,生活に関わり意見する必要があると思うもの,科学及び学問に対する冒涜にのみ反応するよう心掛けている.できてない気もするけど.そして,反応する時は,「これを批判してやろう」ではなく「なぜその意見があって,これをどう見れば良いのか.また,それが間違っている場合にどうすれば改善できそうか」を考えるように注意している.

自分が間違っているとは限らないし相手が間違っているとも限らない.間違っていてもそれを信仰することもある

まず,デマの話のまとめになるが,常に正しさは更新される.ある瞬間に正しいと思っていたものは新しい知識によって,もしくは思考を深めた結果間違っていたことがわかる.これは判断に必要な情報が瞬時に揃わない・人間の思考能力は完璧ではない・思考は実時間で進むことなどが起因しているので仕方ない.常に正しくない可能性を認める必要がある.直感的な最初の判断を信じすぎない必要もあるし,常に考えを更新する覚悟を持つべきだと考えている.

また,誰かにとって間違っていても誰かにとって正しいことがある.物理法則は誰にとっても同じであるが,僕が可愛いかどうかは人によるし,自身が可愛いと思っていてもそう思わない人もいる.個人間の認識の齟齬は個人の経験・知識などの違いによるものだと考えているが,相手の背景知識などを考慮することで少しはマシになると思う.さて,物理法則は誰にとっても同じであるが,同じ解釈ができるとは限らない.物理学者が僕に物理を教えるのであれば,齟齬を認める必要がある.数式をガチガチに固められたら僕は何もわからない.そして,僕も簡単の為に齟齬がある説明をしていることを認識する必要がある.

そして,間違っていても信じ続けていることもある.戦場において「自分は運がいいから銃弾は絶対に当たらない」と信じることを否定するのは割と残酷な気がする.そして,信じ続けないといけない状況でそれを否定してやるのが正義とは言い切れない.

正しさを求め,批判を求めない

正しさを求める上で,ある物事に関する知識の形式は簡単ではないことを知る必要がある.そして,簡単に表された情報は情報の損失が大きい可能性がある.

例えば,FACTFULNESSで紹介されているようなトピックをあげると,世の中を先進国と発展途上国に二分するのは明らかに間違っている.というのも,中間的な存在も存在し,区分が大きすぎるからである.齟齬を認めた上で,国連の区分ではLevel1~4に分類されている.そして,30年前はLevel1の(最も発展途上国側に位置する)国はそれなりにあったが,現在ではほとんどの国がLevel2~4にいる.そして,レベルによる区分は4つに分けているが,離散値ではなくて連続値であることを意識する必要がある.更には先進度の判断には複数の要因があり,乗り物だったり,下水道や電気だったり,様々な要因を考慮する必要がある.要するに多次元であることも知る必要がある.

少し話は飛ぶが,より分かりづらい説明はそれだけ説明に対するコストが掛かり,その説明によるベネフィット(利益)とのトレードオフを考えよう,という考え方がある.物事をより簡潔に説明する努力はされている.しかし科学のやっていることはしばしば複雑になりうる.とても優秀な研究者が頭を悩ませるほどには複雑だということを知れば,少しは納得できるかも知れない.

さて,あなたは何か情報を見たときに正しさを求めているか.情報が正しいかどうか判断する為に必要なのは,情報の背景にある知識,発信者の主観的な認識,背景知識が挙げられる.そして,間違っていると思われる場合に対話するのであれば,知見を引き出すための議論か情報収集になる.相手自身を批判する必要はなくて,情報を精査するだけで良い.

例外を挙げると,間違った情報を間違っているとわかった上で修正することなく周りの人に悪い影響を与えている場合に限っては,批判しても良いのかも知れない.例えば,フェイクみたいな論文を引っ張ってきて自分の意見を押し通そうとする場合とか.これも信じ続けないといけない状況にいる可能性は否定できなくて,数学を落ち着いて勉強する余裕はないが機械学習について大雑把な(かつ数学に詳しい人には間違っているとしばしば批判されていた)意見を述べていた人がいたが,この人に数学を勉強しろ!と言い続けるのも酷なのかも知れない.

また,相手を批判してやろうという気持ちは冷静さを欠く上に相手の精神状態に悪い影響を与え,正しさを求める障害にもなりかねない.これは本末転倒になってしまう為,知ることを重視し,その上で相手をリスペクトすることには気を使うべきである.

相手のことを知ろうとする,そして存在を認める

何か自分の理解できない行動をしている人がいたときに,あいつは”馬鹿だから”という理解は何も理解していなくて.ただ気持ちよくなりたいだけだと思っている.ケーキの切れない非行少年たちという本では,少年院にいる非行少年について語られている.犯罪を犯す彼らは悪いことをしてやろうという認識なのではなく,認知能力の低さから悪いことをしていると自覚できないことなどが言及されている.また,感情の制御も難しい場合があると言及されているが,こういった問題は果たしてその個人の問題だろうか?馬鹿だからその人が悪いといって何も解決するものではなく,現状を把握して何をすれば改善するか考える必要がある.ちなみに,以前はIQ85未満を発達障害としていたがこれだと人口の14%が含まれて多すぎるため基準をIQ70未満に引き下げたらしい.基準を変えたところで人間が変わっているわけではないし,特にこの境界付近にいる人も苦労していることは知った方が良いと思う*3

もしあなたが優秀な人間であれば,この話は自分の周辺には関係のない話ではないか?と考えるかも知れないが,周りの人間は思った以上に論理的に行動できていない.多くの人は自分を完全に論理的に行動しているとは思っていないだろうが,他人もそうである.たまに例外がいるが,論理的に行動している人はよく観察すればわかる気がする.

そして,論理的に行動していたとしても,あなたの論理と周りの人の論理は違う.もしあなたが論理的に考えた結果感染リスクを重視してマスクをするべきだと判断したとしても,別の人は論理的に考えた結果皮膚への負担や熱中症を重視してマスクをするべきではないと判断するかも知れない.

参考情報

こういった考えに至った背景には色々あったのでいちいちソースを引っ張ってくることはできないが,いくつか参考になりそうな書籍・サイトは思いつくので,最後にそれらを記載しておく.

「ケーキの切れない非行少年たち」はぜひ読んでほしい.新書のパーソナリティ障害,発達障害辺りもより人の多様性を理解するのに役立つと思う.マイノリティという言葉にも幅があって,ある程度仲間を見つけられているマイノリティの集団もあれば,本当に孤立している少数の人もいる.それらについて考えた時に,僕は少なくともジェンダー論に詳しくないことを自覚しているので,これに関して良い本があれば教えてほしい.他にもどのような人が存在し,どのように生きているか知るための情報は集めたい.

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書) | 宮口 幸治 |本 | 通販 | Amazon

パーソナリティ障害 いかに接し、どう克服するか (PHP新書) | 岡田尊司 | 家庭医学・健康 | Kindleストア | Amazon

発達障害 (文春新書) | 明, 岩波 |本 | 通販 | Amazon

FACTFULNESSを読むと良い.そして完全教祖マニュアルを読むと良い.これらは情報を正しく知る方法,そして宗教の形で他人をコントロールする方法について書かれている.しかし,僕は人を扇動するようなメディアの仕組みなどについて分かりやすい本を知らないので,もし何か良い本があれば教えてほしい.

FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 | ハンス・ロスリング, オーラ・ロスリング, アンナ・ロスリング・ロンランド, 上杉 周作, 関 美和 | ビジネス・経済 | Kindleストア | Amazon

完全教祖マニュアル (ちくま新書) | 架神恭介, 辰巳一世 | 宗教入門 | Kindleストア | Amazon

そして,人間の持つ認知バイアスについて知ると意識しやすいかもしれないので,参考までに50個の認知バイアスをまとめたサイトを載せておく.良い分類なのかわからないが,6種類ほどにカテゴリ分けされたバイアスが紹介されている.有名どころだとDunning-Kruger効果(Python完全に理解した!->何もわからん…の曲線)やギャンブラーの誤謬が挙げられるが,見れば確かにそうだと思う物が多いと思う.

www.visualcapitalist.com

 

*1:オフラインでも様々な情報が流れている.

*2:しかし感情の制御は結構難しい行動で,これができないことを責めるわけにもいかない

*3:14%は小学校のクラスに5人という話題もある.