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コミュニケーションのモデルに関する考察

ここ最近コミュニケーションのモデルについて考えていたので,そのまとめ.

シャノン型のコミュニケーションの伝達モデル

まず,僕はコミュニケーションを伝達するものと考えていた.伝達自体は辞書的な定義であり,ある程度妥当なものだと思っていた.

また,こういったモデルに類似したものとして,シャノン型のコミュニケーションの伝達モデルが存在する.情報理論について少しでも触れた人間なら見たことのある図だと思う.詳細に関しては以下の記事に任せる.

コミュニケーションの伝達モデル

メッセージが送信者から受信者に対して送信される形式で,その送信路においてノイズが発生する,といった単純なモデルである.情報理論では,このノイズが入ることによってメッセージの送信効率を計算したり,通信における最もシンプルな抽象化として役立てられている.*1

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しかし,このモデルにはいくつかの間違いがある.このモデルを基に,コミュニケーションのモデルについて考えてみる.

まず,先ほどの記事でも人間のコミュニケーションに適用する際の問題点について指摘されているが,僕自身が感じた問題点も含め,いくつかまとめとして記載する.*2

  • 意味を扱うことができない:メッセージは情報でしかなく,その情報の持つ意味には関知しない.当然だが,受信者が受信することを前提としているため,これを拒否することができない.
  • 送信者/受信者の状態を表現できない:同じメッセージを受け取るにしても,解釈が存在する.例えば,”今日は良い天気ですね.”と言われても,Aさんは確かに良い天気だと感じるかもしれないが,Bさんはこいつはイギリス人かと思うかもしれない.また,Aさんも時が経てば考えが変わる,といったことがある.
  • 双方向のコミュニケーションモデルではない:字の通りだが,フィードバックが得られない.また,一対一のコミュニケーションに限定され,直接的な拡張は難しい.*3

これらの点について,僕はそもそも勘違いをしていた.このモデルを見た際に僕と同様に感じた人もいるかもしれないので,その勘違いについても述べておく.

  • このモデルは送信路についてのみ扱うもので,それ以外はモデルを拡張する人間が解釈できると考えていたため,送信者/受信者についても可変な状態を保つことができ,受け取った情報によって受信者の状態が変わる,といったモデルを立てることで文脈や解釈が可能になると考えていた.しかしそうでは無いらしく,あくまで固定的なものらしい.

 

しかし,なんにせよ双方向性が無くコミュニケーションとしての拡張性にかける,そして定義的に受信者による意味の解釈が表現できないことがこのモデルの致命的な弱点となる.

自己表現ベースのコミュニケーションモデル

 この問題を解消するため,メッセージの意味の解釈が可能なモデルを考える.上の図と共にひでまんさん(Twitter ID:@hideman2009)から許可をいただいて使用しているが,彼が提示したモデルは問題の一部を解消しているように見える.

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このモデルでは,送信者は自己表現を行い,受信者はそれを解釈する,といった形で表現される.このモデルの利点として,まず,僕の勘違いしていたシャノン型のコミュニケーションの伝達モデルと同様に,送信者/受信者の状態を扱っていることが挙げられる.というのも,infomation creationは受信者の状態に依存するため,原理的に状態を持つことが必須となる.これによって,文脈や意味の解釈を行うことが可能になる.また,noiseといった表現ではなく,受信者の解釈にnoiseの考えが吸収されるため,一対多数のモデルへの拡張を自然に行うことができる点が個人的に嬉しい.

状態を持つこととそれらに意味の解釈を委ねることが大きなポイントだと感じる.*4

このモデルはシャノン型の問題点を大凡解決しているように見える.しかし,Fullなコミュニケーションとしては構造的に足りないものと副次的に欲しいものが一つずつ挙げられる.

  • フィードバックの追加:単純に,送信者/受信者を分けてしまうと同時に二者が送信する図を作ることができない.
  •  チャンネルの追加:これは,構造的なものではなく,利便性のために追加されるべきだと思われる.ここまでノベルタイミングがなかったが,コミュニケーションでは相手に何かを伝えるという意図が必要になると考えていた.例えば,僕が秘密裏に書いている日記を誰かが読んで,勝手に想像力が働いたとしてそれはコミュニケーションではないと考えていた.しかし,これに関しては”コミュニケーション”という言葉のラベルの問題でしかなさそうなので,オプショナルな変数として,相手に伝える意図といったものを用意するのが妥当だと考えた.

フィードバックおよびチャンネルを考慮したコミュニケーションのモデル

 

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自己表現ベースのコミュニケーションのモデルから,先ほどの問題意識によって二つの変更を加えた.

まず,赤い矢印の追加だが,送信者/受信者といった一方的な構造の排除のために逆方向の流れを追加した.また,これは送信者->送信者といった自己フィードバックとしての意味も内包する.定義によるが,自分自身の表現による自己の変容もコミュニケーションとして含みうるのであれば一般性を持たせるためにこの矢印を追加することが妥当だと考える.

(この点を考慮すると,self-expressionというより,worldという単語を用いた方が適切かもしれないと思った.詳細に記述する場合,矢印が自己表現の方法であり世界に対して行われる操作で,その結果変容した世界が自己表現の結果である,と分解した方が良いのかもしれない.)

次に,option channelについて,ここでは送信者の意図といった表現に含まれない送信時の内部状態を表現するためのメモリを考える.通常,通信ではTCPといったプロトコルは送信者/受信者間で互いに共有され,パケットのヘッダのようなメタ情報は情報に付随している.しかし,意図は情報に含まれて送信されるべきものではなく,送信者の内部に保持されるものである.これを内部状態として送信者自身に内包することは可能だが,意図の特殊性から明示的に表現することが重要だと考えた.

このオプションによって,Aさんにメッセージを伝える意図がある/ない,それぞれの場合にフィードバックに対する評価を変えることができる.Aさんに向けた手紙に対して好意的な返事が返って来れば嬉しいが,Aさんに伝えずにとっておいた手紙が勝手にAさんに読まれて好意的な返事が返ってきたら,Aさんがストーカーの可能性でとても怖いと感じる可能性もある.意図に限らず,こういったメタ情報は内部状態として暗に保持されるより,記述することが可能な形式の方がより一般的に記述できるのではないだろうか.

結論

今回シャノン型のコミュニケーションの伝達モデルを起点としてコミュニケーションのモデルのあり方について考察したが,最終形だけ見るとインタラクションのモデルでよく見かけるようなエージェント二者間が内部状態を更新しながらインタラクションするだけの図に見えるし,マルチエージェントの強化学習でも明示的に二者間の相互作用を表現すればこういった形になると思われる.

しかし,流れを追うことでコミュニケーションにおいてどの要素が必要で,重視されるべきかといったことを考える機会になれば最低限考えた意味があると思っている.

また,普段解釈によってモデルを作成することに対して苦言を呈している割に,観察からそれらしいモデルのデザインをしてしまっている.妥当性に関して議論でしか評価できず,実際のものによる評価ができない点は少しモヤモヤするが,ともかく考える機会にはなったので僕としては悪くなかったと考えたい.まぁコミュニケーションという概念自体解釈なので,この解釈のありようについて議論するのは実は不毛ではないとも思う.*5

 

 

 

*1:多分

*2:記事に書いてあるまとめ方なら記事を読んだ方が有益なので

*3:もし一対多数のコミュニケーションであれば,noiseはそれぞれの受信者によって違うものとなる.受信者ごとに独立に記述することで全て表現できる

*4:違ったらすみません

*5:知らんけど