人間のあるべき姿の探索

思索・人形・エンジニアリング

日々流れてくる情報に対処する為に

インターネット上には,今も昔も様々な情報が流れている*1.そしてそれらの情報は概ね人間が流している.生活に役立つ情報を流す人もいれば逆に嘘をついている人もいるし,怒っている人もいるし,他人を扇動する意思のある人もいる.

そこで,自分がそういった情報に流されず,冷静に判断する為に意識していることを言語化してみることにした.また,後半ではインターネット上の情報の話だけではなく,人間の思考・行動についても触れる.

入ってきた情報はひとまず判断を保留する

ここ最近COVID-19の影響もあってデマ情報や真偽の判断がつかない情報がたくさん流れている.こういった情報は少し考えればデマだとわかるものから専門家の意見や知識が必要なものまで幅広く存在する.

まず,してはいけないことは何か.それは情報を見た瞬間に判断することだと考える.「この薬はとある病気を治します!(実は実証実験をしていない)」みたいな情報があったときに,目立つ部分だけ見た時に判断せずよく読めば良い.基本的にはすぐに判断する必要があるものはあまりないので,判断を保留するくらいの余裕はある.しかし,情報を処理することを遅らせた時に,時間圧の存在するものをロスすることがある.例えば「5分後にディズニーのチケットが限定で100枚だけネット販売される」とか.すぐに買わないと売り切れてしまうので,対応する必要がある.しかし騙す側こそ時間圧を利用しているので,すぐに対処すべきと考えられるものも一瞬でも良いので裏側の意図を考えて立ち止まった方が良い(僕はこの一瞬の判断によるロスは仕方がないものと考えている).

ではどのあたりまで待てば良いのか.判断基準は二つほど考えられる.まず一つは複数の専門家がその対象について発言している場合.もう一つは肯定及び否定の意見が両方で揃った時.多くの人が賛同しているが,よくよく考えると非自明な反対意見が正しいこともある.ある意見を肯定/否定する意見ばかり見ているとそれが正しいのか判断がつかなくなるので,対立意見との比較をすることでより健全に考えられると思っている.その点では自分の都合の良い情報のみを仕入れるようなメディアの使用法は危険かもしれない.

扇動する人は扇動する対象を考えている

結論から言えば,情報を聞いた時に誰がなぜ言っているか考えようということに尽きる.

概ね全ての行動には意図があって,善意もあれば扇動してやろうという悪意もある.そして,扇動の仕方は直接的なものもあれば間接的なものもある.最近ポテトサラダが流行っているらしい.これは誰かが言っていたけど,あえて明らかに間違った情報を流すことで反発する意見を誘発して盛り上げる意図がある.これにいちいち反応していると人生が終わる.ここ最近は学費の問題で教員と学生を戦わせようとする人と,無知なために教員にしか矛先を向けられない新入生がいる.あまり私見を述べるのも良くないが,大学の運営の問題であっても教員は大学自体ではないし,公的機関が教育を保証してほしいと思っている.その為,授業の質に文句をいうのは良いが教員と戦わずに一緒により良い方法を模索してほしい旨の発言をしている.

そして,特に対象になりやすい人は何かしら困っている人,問題意識がある人,怒りたい人が考えられる.例を挙げると,クラスターフェス(マスクをせずに渋谷で集まっていた人たち)はまるで宗教だといった指摘があった.集まっている人たちは「コロナで活動ができず困っている」,かつ「マスクをつけないことで迫害されているが,迫害によって内部の団結感を高めている」.特に前者が重要で,テレビショッピングでも論文でも,何か困っている状況を説明してそれに付け入ろうとする.そして悪質なもの,例えば質の悪いメディアは偏向報道などで困った状況を”わざと”作り出す.マスクが売り切れています!なんて報道をわざわざ大袈裟にするものではない.また,怒りたい人は単純に感情の制御ができていないので,落ち着いてほしい*2

僕は自分のアイデンティティに深く関わり自分の考えを周知したいもの,生活に関わり意見する必要があると思うもの,科学及び学問に対する冒涜にのみ反応するよう心掛けている.できてない気もするけど.そして,反応する時は,「これを批判してやろう」ではなく「なぜその意見があって,これをどう見れば良いのか.また,それが間違っている場合にどうすれば改善できそうか」を考えるように注意している.

自分が間違っているとは限らないし相手が間違っているとも限らない.間違っていてもそれを信仰することもある

まず,デマの話のまとめになるが,常に正しさは更新される.ある瞬間に正しいと思っていたものは新しい知識によって,もしくは思考を深めた結果間違っていたことがわかる.これは判断に必要な情報が瞬時に揃わない・人間の思考能力は完璧ではない・思考は実時間で進むことなどが起因しているので仕方ない.常に正しくない可能性を認める必要がある.直感的な最初の判断を信じすぎない必要もあるし,常に考えを更新する覚悟を持つべきだと考えている.

また,誰かにとって間違っていても誰かにとって正しいことがある.物理法則は誰にとっても同じであるが,僕が可愛いかどうかは人によるし,自身が可愛いと思っていてもそう思わない人もいる.個人間の認識の齟齬は個人の経験・知識などの違いによるものだと考えているが,相手の背景知識などを考慮することで少しはマシになると思う.さて,物理法則は誰にとっても同じであるが,同じ解釈ができるとは限らない.物理学者が僕に物理を教えるのであれば,齟齬を認める必要がある.数式をガチガチに固められたら僕は何もわからない.そして,僕も簡単の為に齟齬がある説明をしていることを認識する必要がある.

そして,間違っていても信じ続けていることもある.戦場において「自分は運がいいから銃弾は絶対に当たらない」と信じることを否定するのは割と残酷な気がする.そして,信じ続けないといけない状況でそれを否定してやるのが正義とは言い切れない.

正しさを求め,批判を求めない

正しさを求める上で,ある物事に関する知識の形式は簡単ではないことを知る必要がある.そして,簡単に表された情報は情報の損失が大きい可能性がある.

例えば,FACTFULNESSで紹介されているようなトピックをあげると,世の中を先進国と発展途上国に二分するのは明らかに間違っている.というのも,中間的な存在も存在し,区分が大きすぎるからである.齟齬を認めた上で,国連の区分ではLevel1~4に分類されている.そして,30年前はLevel1の(最も発展途上国側に位置する)国はそれなりにあったが,現在ではほとんどの国がLevel2~4にいる.そして,レベルによる区分は4つに分けているが,離散値ではなくて連続値であることを意識する必要がある.更には先進度の判断には複数の要因があり,乗り物だったり,下水道や電気だったり,様々な要因を考慮する必要がある.要するに多次元であることも知る必要がある.

少し話は飛ぶが,より分かりづらい説明はそれだけ説明に対するコストが掛かり,その説明によるベネフィット(利益)とのトレードオフを考えよう,という考え方がある.物事をより簡潔に説明する努力はされている.しかし科学のやっていることはしばしば複雑になりうる.とても優秀な研究者が頭を悩ませるほどには複雑だということを知れば,少しは納得できるかも知れない.

さて,あなたは何か情報を見たときに正しさを求めているか.情報が正しいかどうか判断する為に必要なのは,情報の背景にある知識,発信者の主観的な認識,背景知識が挙げられる.そして,間違っていると思われる場合に対話するのであれば,知見を引き出すための議論か情報収集になる.相手自身を批判する必要はなくて,情報を精査するだけで良い.

例外を挙げると,間違った情報を間違っているとわかった上で修正することなく周りの人に悪い影響を与えている場合に限っては,批判しても良いのかも知れない.例えば,フェイクみたいな論文を引っ張ってきて自分の意見を押し通そうとする場合とか.これも信じ続けないといけない状況にいる可能性は否定できなくて,数学を落ち着いて勉強する余裕はないが機械学習について大雑把な(かつ数学に詳しい人には間違っているとしばしば批判されていた)意見を述べていた人がいたが,この人に数学を勉強しろ!と言い続けるのも酷なのかも知れない.

また,相手を批判してやろうという気持ちは冷静さを欠く上に相手の精神状態に悪い影響を与え,正しさを求める障害にもなりかねない.これは本末転倒になってしまう為,知ることを重視し,その上で相手をリスペクトすることには気を使うべきである.

相手のことを知ろうとする,そして存在を認める

何か自分の理解できない行動をしている人がいたときに,あいつは”馬鹿だから”という理解は何も理解していなくて.ただ気持ちよくなりたいだけだと思っている.ケーキの切れない非行少年たちという本では,少年院にいる非行少年について語られている.犯罪を犯す彼らは悪いことをしてやろうという認識なのではなく,認知能力の低さから悪いことをしていると自覚できないことなどが言及されている.また,感情の制御も難しい場合があると言及されているが,こういった問題は果たしてその個人の問題だろうか?馬鹿だからその人が悪いといって何も解決するものではなく,現状を把握して何をすれば改善するか考える必要がある.ちなみに,以前はIQ85未満を発達障害としていたがこれだと人口の14%が含まれて多すぎるため基準をIQ70未満に引き下げたらしい.基準を変えたところで人間が変わっているわけではないし,特にこの境界付近にいる人も苦労していることは知った方が良いと思う*3

もしあなたが優秀な人間であれば,この話は自分の周辺には関係のない話ではないか?と考えるかも知れないが,周りの人間は思った以上に論理的に行動できていない.多くの人は自分を完全に論理的に行動しているとは思っていないだろうが,他人もそうである.たまに例外がいるが,論理的に行動している人はよく観察すればわかる気がする.

そして,論理的に行動していたとしても,あなたの論理と周りの人の論理は違う.もしあなたが論理的に考えた結果感染リスクを重視してマスクをするべきだと判断したとしても,別の人は論理的に考えた結果皮膚への負担や熱中症を重視してマスクをするべきではないと判断するかも知れない.

参考情報

こういった考えに至った背景には色々あったのでいちいちソースを引っ張ってくることはできないが,いくつか参考になりそうな書籍・サイトは思いつくので,最後にそれらを記載しておく.

「ケーキの切れない非行少年たち」はぜひ読んでほしい.新書のパーソナリティ障害,発達障害辺りもより人の多様性を理解するのに役立つと思う.マイノリティという言葉にも幅があって,ある程度仲間を見つけられているマイノリティの集団もあれば,本当に孤立している少数の人もいる.それらについて考えた時に,僕は少なくともジェンダー論に詳しくないことを自覚しているので,これに関して良い本があれば教えてほしい.他にもどのような人が存在し,どのように生きているか知るための情報は集めたい.

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書) | 宮口 幸治 |本 | 通販 | Amazon

パーソナリティ障害 いかに接し、どう克服するか (PHP新書) | 岡田尊司 | 家庭医学・健康 | Kindleストア | Amazon

発達障害 (文春新書) | 明, 岩波 |本 | 通販 | Amazon

FACTFULNESSを読むと良い.そして完全教祖マニュアルを読むと良い.これらは情報を正しく知る方法,そして宗教の形で他人をコントロールする方法について書かれている.しかし,僕は人を扇動するようなメディアの仕組みなどについて分かりやすい本を知らないので,もし何か良い本があれば教えてほしい.

FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 | ハンス・ロスリング, オーラ・ロスリング, アンナ・ロスリング・ロンランド, 上杉 周作, 関 美和 | ビジネス・経済 | Kindleストア | Amazon

完全教祖マニュアル (ちくま新書) | 架神恭介, 辰巳一世 | 宗教入門 | Kindleストア | Amazon

そして,人間の持つ認知バイアスについて知ると意識しやすいかもしれないので,参考までに50個の認知バイアスをまとめたサイトを載せておく.良い分類なのかわからないが,6種類ほどにカテゴリ分けされたバイアスが紹介されている.有名どころだとDunning-Kruger効果(Python完全に理解した!->何もわからん…の曲線)やギャンブラーの誤謬が挙げられるが,見れば確かにそうだと思う物が多いと思う.

www.visualcapitalist.com

 

*1:オフラインでも様々な情報が流れている.

*2:しかし感情の制御は結構難しい行動で,これができないことを責めるわけにもいかない

*3:14%は小学校のクラスに5人という話題もある.