人間のあるべき姿の探索

思索・人形・エンジニアリング

恋愛の話

以前ちょっとした文章を書きたくてテーマを募集したところ,「恋愛の話」があったので少しだけ書きます.

 

最近恋人に勧められて江戸川乱歩の『芋虫』を読みました.

あらすじをざっとおさらいすると,以下のような感じです(Wikipediaより)

傷痍軍人の須永中尉を夫に持つ時子には、奇妙な嗜好があった。それは、戦争で両手両足、聴覚味覚といった五感のほとんどを失い、視覚触覚のみが無事な夫を虐げて快感を得るというものだった。夫は何をされてもまるで芋虫のように無抵抗であり、また、夫のその醜い姿と五体満足な己の対比を否応にも感ぜられ、彼女の嗜虐心はなおさら高ぶるのだった。 

芋虫 (小説) - Wikipedia

ちなみにWikipediaはさらっと最後の方のネタバレをすることがあるので読んでみようかな!と少しでも思った方はリンク先に飛ばない方が良いです.短編なので蕎麦のようにさらっと読めますが,中身は茄子の鴫焼をぐにゃりと噛み潰した時のように嫌な気持ちになります.

須永中尉は戦地で大きな成果を挙げましたが,帰ってきた時には先の説明のようにボロボロになってしまいます.最初こそ軍人としての誇りか勲章と当時の新聞を見せてくれと戦果を反芻しようとしますが,半年も経てばそのことは忘れてしまいます.須永中尉は欲情する他に何もできないただのケダモノのようであり,それに応じる時子も嗜虐心を煽られ…と二人の関係性が美しい(性癖(自主規制))作品です.

タイトルの『芋虫』は夫の須永中尉を指した言葉で,視覚と触覚以外を失って薄暗い世界に閉じ込められてしまった存在として描かれますが,実は妻の時子も,この薄暗い世界に閉じ込められてしまった存在ではないでしょうか.二人は上司の好意もあって上司の家を借りて二人で住むことになります.元より手足をもがれた芋虫の須永中尉はともかくとして,時子も彼の世話をする必要があり,その世界に囚われています.夫は醜くなってしまいましたが,妻もその醜い姿に魅了されて,欲情し,その感情は次第に激しくなっていきます.

 

この作品に関して,このふたりの世界が作られているところが美しいと思っています.例え醜かろうとそれに魅了され快楽を貪る妻は幸せ者ですね.結局,他人に理解されずとも,ふたりの世界を構築してより深い闇の底に沈んでいくことが恋愛の美しさなんじゃあないかと思います.僕には女を殴る男も男に殴られて喜ぶ女も理解できないし脳味噌をハックされている阿呆に見えますが,彼らには彼らなりの美しく醜い世界があって,それはそれで良いのだと思います.ふたりだけの秘密とか,共犯関係みたいな,周囲の他の人と差別化される関係性が好きですね.

 

それはそうと恋人は可愛いです.