人間のあるべき姿の探索

思索・人形・エンジニアリング

肉体からの解放で何が救われるのか

少し前にclusterというVRアプリケーションを試してみて,アバタを自作して人間とコミュニケーションを取るに至った.そこで,(あくまで個人的な)考察をしてみる.

少し体験してみた程度なので,より長い期間・より没入感のある環境に身を置いてみると感覚は変わるのかもしれない為,試してみたい気持ちはある*1

経緯

いつものようにTwitterを閲覧していたところ,SFCのキャンパスをBlenderで作成し,clusterというアプリケーション上に公開されているのを発見した.

cluster.mu

このご時世でキャンパス内に入ることもできないし,鴨池に入っても放塾されないとのことで,せっかくなので入ってみることにした.

何をしたのか

一人で,もしくは友人と遊んでみた

SFCの他にも渋谷や青の洞窟といったいくつかのワールドを探索した.ワールドの規模や作り込みはそれほど複雑なものではなかった*2.しかし,ワールド内を擬似的に歩いている感覚は得られ,何より嬉しかったのが共同注視,目線を合わせることが可能だったことと歩きながら場所の案内や会話ができたことである.オンライン会議では画面上に相手がいるが,大体カメラから目をそらしているので目線を合わせることもなく,会話中にすることといえばメモを取るくらいである.

アバタを自作した

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作った.Blenderに手を出そうと思っていたこともあり,ひとまずcluster上で動くだけの物を作ってみた.といっても,外型を整えて色を塗ってボーンを埋めただけではある*3

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ぼのぼのも作ってみたりした.プレゼンができそうな雰囲気がある.作ってみた感想として,可愛いとか愛着が湧くとかいろいろあったけど,とりあえず自分固有の身体的特徴を得たことはそれなりに嬉しかった.

VR空間で初対面の人と遊んだ

現実世界で人間と会話するのがめちゃくちゃ苦手なのであれなのだけど,VR空間で人間とコミュニケーションをとることができた.

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チョークで遊んでいる時に,”カワウソカワイイ”と書いてもらった.僕もそう思います.この時遊んだワールドは教室にチョーク・ゴミ箱・ねこなどの把持できるアイテムがいくつかあり,横には画像のように庭が広がっていた.会話をメインとしなくてもただ飛び跳ねて追いかけっこをしたり,チョークで空間上に点を配置するだけでも,VRとしてのコミュニケーションは成立した.新規性からくる楽しさもあったが,初対面の人と何かしらの体験を一緒にできたのは割と嬉しかった. 

七夕祭に行った

SFCの七夕祭は今年はオンラインで開催された.すごい.

壁を登ったり,ステージ上で動画配信が行われたり,Murai Junが講義をしたり,最後には花火が上がった.

正直なところ,オフラインを前提とするとイベントでは人との会話ができない為,一般参加者同士のコミュニケーションが無くちょっと寂しさがあった.目の前に知り合いらしき人がいてもジャンプする,ハートを飛ばす程度のコミュニケーションしかできなかった(ジャンプ/着地状態を1/0と捉えてビットの切り分けの時間幅のプロトコルが共有されていればジャンプで任意の会話はできるが時間は有限ではない上にこのプロトコルで会話を行うには人生はあまりにも短い).

ただ,画面上で動画が流れるの体験よりは一緒にみている感覚が共有しやすく,周りを見渡せばたくさんの人が一緒の空間にいて”同じ体験をしている”ということが人目でわかった*4.これは非常に有意義だったと思う.

 

良いと感じた点

距離感覚について

clusterという空間の良さとして,Jun Murai大先生がすでに講義を行なったような機能としての便利さがある.ついにVRで学会が開催されたらしい.オンライン学会はポスターの説明が大変だとか,発表しても聴衆の当事者感覚が無く質問があまり飛んでこなかったとか,現地に行かなくても良い便利さがあった上で,そういった質に関する不満はいくつか見かけていた.その点ポスターの前にいって質問ができるような環境であれば解消できそうだし,VR空間内とはいえ”行かなきゃ聞けない”感覚が得られそうで,非常に期待している.

場所からの解放

遠くにいる人が気軽にどこかに行けることは良いことである.最近オンラインでの対話環境が整ったのをきっかけに遠くの方と議論しやすくなった方もいて,面白さを感じている.これはclusterのような空間に限った話ではないが,体験の種類によっては確実に共有しやすくなっている.SFCの七夕祭に他県から参加されている方もいたし,ライトな体験としてこれが可能になっているのは面白い.

動き及び見た目

エージェントの振る舞いを考察する際,例えば不気味の谷の議論をする時にも,見た目(Appearance)と動き(Behavior)は区別して議論されると明確化されていると感じるので,区別して議論する*5

まず,見た目の話をすると,いくらでもやりたいようにやれる.現状だとアバタの作成のハードルが割と高いと感じていて技術的な解決は必要だが,手を生やしたり顔面をめちゃくちゃ綺麗にしたり無生物の見た目て行動することもできる.僕は単純に顔面が綺麗な姿になって持て囃されることが嬉しいのかわからないが,カワウソとして可愛いと言われたのは割と嬉しかった.こういった嬉しさは現実と全く同じものを求めず,あくまでバーチャルとしての嬉しさを求めた方が健全なのかもしれない.

動きとしては,肉体の動きとの関連性が弱まることが挙げられる.まず,人間の形をしたアバタを考えてみる.これは使用する機器に依存することだが,例えば座っていても歩くことができる.ボタンに動作を定義すれば手を振ることもできる.つまり,身体的にできない動作を擬似的に再現することができる.顔面を綺麗にすることもできるが,動作を綺麗にすることができるのは嬉しいのかもしれない.

次に,ボタンで動作する尻尾を生やすようなことを考えてみる.これを現実世界で実現した場合,尻尾を動かすための何かしらの動作が必要になる.BMIでもない場合はボタンを押すなどの行動が周りの人から見えてしまう.しかし,VR空間であればそういったボタンを押す行為は周りから見られずに行うことができる.要するに,現実世界における一挙手一投足を観察されずに,意図的に観察されない動作をすることができる.よく瞬きで嘘をついているか判定する能力とか読唇術とか微小な動作を利用する人がいるが,こういった出力のチャンネルをオフにすることができるのである.これは現在の嬉しさだけでは無く,将来的なコミュニケーションの方式を探るのにも利用できそうな気がする

人格からの(弱い)解放

結局,これらの動きや見た目の自由度の高さが何になるかといえば,人格との結びつきを解消しやすい点にあると思う.見た目と人格がある程度結びついている点は,例えば社会通念として良いとされる肉体を持つ人は良い評価を得やすい為,それに基づいた行動を取るとか,逆の場合には肉体を隠そうとするとか,影響している.また,単純に個人の識別のための,個人情報としての肉体という側面も存在する.これらをリセットすることは割と大きい.僕はカワウソとしてVR空間に存在していたが,ぼのぼのに変化したとたん別人として捉えられるかもしれない.

ただし,肉体をリセットしたからといって今までの性格を引き継いで新しい肉体と暮らすだけだし,使えば使うほど固定化されているので,リセット自体に救いを求めるのならともかくリセットすればうまくいくというわけではない.オタクが異世界転生しても勇者になるわけでは無くて,オタクのままである.

留意点

肉体からの開放

上述するメリットは同時に問題も起こす.行動を隠すことはそれを前提とするコミュニケーションの破綻につながる.例えば,もぬけの殻になっているアバタに話しかけても何も反応してはくれないが,彼がもぬけの殻になっていることを把握するには,何をしても動かないことで認識するしかない.さらにいうと,意図的に動かないこともできるため,悪意を持ってもぬけの殻になり,擬似的なログアウトをすることも可能である.

僕は人の話を聞いている時と聞いていない時があるが,少なくとも対面ではそれを表現するためにちゃんと顔を逸らしたりボーッとしている.しかし,アバタを用いることで,一見見ているように感じるが実は何も見ていない状況が発生する.僕個人の意見にはなるが,対話中に明確に対話していないのがわかるよりも,対話しているように見えて実はしていない状況の方が共通の信念が獲得できていなかった感じがして印象が悪い.

エピソード

 これは少し前に気づいて面白かったのだが,空間からの解放とともにその場所に行くための労力が減った.これによるメリットは既に述べたが,体験のための労力及び共有する体験の減少が大きなデメリットになっているらしい.

まず,体験のために労力を割くことは当事者感の獲得につながる.わざわざ現地まで学会に行けばせっかくだからポスターを見て回ろうという気にもなるが,家でリンクを開いて出てきたページにわざわざ質問しようと思わない場合が多そうな気がする*6.さらに,記憶は結構その時の他の体験に依存する.一緒に美味しいご飯を食べながら会話して帰り道の電車で反芻するのとお家で画面の向こうで会話してそのまま寝るのとでは大きな違いがある.帰り道の電車のエピソードやご飯を食べている時といった情報が会話の内容を特徴付けるのに用いられるし,甘い物を食べると意見も柔らかくなるみたいな話もある.これらの大部分が失われた経験というのは結構寂しい物なのかもしれない.

まとめ

片方で全てを得られる世界は遠そうなので,肉をやめるチャネルと肉のチャネルを良いバランスで使える社会が欲しいね.

 

 

 

*1:部屋の中に動き回る空間と高スペックのマシンが生えてくれることを願う

*2:VRChatのイメージを持っていたので

*3:尻尾を実装し忘れた

*4:ゴーストがいると思うともっとたくさんの人が同じ体験をしていた

*5:もちろん深く関わっていて完全に分離することはできないため,あくまで中心的にみる観点として

*6:僕は参加してないので,あくまで”気がする”程度の話である

アバタを一から作成して動かした

バーチャル空間で動かすアバタを一から作成したというお話.カワウソを作りました.

割と簡単に作成~アップロードまでできたので,手順とハマりポイントのまとめ.基本的にはこちらの記事を参考にしました.

note.com

こちらの記事はVRoidを使って人間を作成していて,デフォルトで人間の型が用意されているので,人間を動かしたい場合はそのまま記事内の手順に従えば良さそうですね.

今回は自分でモデルを作る場合の説明になります.

必要なソフトウェア

  • Cluster:アバタを動かすプラットフォームです.楽しい.
  • Unity Hub及びUnity:VR用のアバタに変換する際に使用.記事に従うと楽
  • UniVRM:Unityの変換用のアドオン.記事に従うと楽.
  • Blender:アバタの作成に使用.公式サイトから2.8(2020/07/03時点で最新)を入れておけば良さそうですね.

必要な技術

  • Blender:基本的な操作ができるとだいぶ変わります.僕はチュートリアル本を一通り写経した程度です.経験がない場合気合が必要です.*1
  • Unity:経験なしで問題ないです.

手順

  1. 形状を作る
  2. 色を塗る
  3. ボーンを設定する
  4. Unityで変換する
  5. Clusterにアップロードする

 

1. 形状を作る.

まずは動かしたいキャラクタの形状を作ります.Blenderモデリングをします.

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概ねこんな感じの形にします.僕はBlenderの操作に慣れていないこともあり,UV Sphere(球体のメッシュ)を変形させてくっつけました.

ここで,3Dプリンタで使用したファイルやstlなどのファイル形式のものがあればファイルのImportからそのまま使えます.

僕はUV Sphereで頂点の数の少ないシンプルなものを作りましたが,Importしたファイルは頂点がめちゃくちゃ多かったりします.その場合Blenderで最適化して頂点を減らします.いくつか方法がありますが,とりあえず密になってる場合は距離でマージすれば良い感じになります.*2 

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後々のことを考えて,上の画像みたいなT-Poseにしてあげてください.手を下げていると後々エラーを吐く可能性があります.

その他の留意点として,普通にUV Sphereを作ると原点中心に作成されますが,足元を原点にする必要があります.最初の画像だと足元に赤い線がありますが,その線がz=0の平面です.*3お腹を原点にして作成したらClusterで胴体が地面に埋まりました.

 

2.色を塗る

Blenderで色を塗ります.方法として,メッシュの各面に色を割り当てることもできますが,目や鼻などメッシュの形に沿わない模様をつけたくなることもあるので,TexturePaintってやつをやります.概要だけ説明するので詳細はググってください.

まず,体表を展開して一枚の画像にしますが,そのために切り取り線を設定します.(上手い方法が分からないので,)適当にお腹の外周の辺を一回り選択して右クリックでMark Seamすると赤線が表示されます.

その後,エディタのモードをUV Editingにして,Smart UV Projectを選択すると一枚の画像になります.

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次に,エディタのモードをTexturePaintに変えて色を塗ります.ほぼペイントですね.これの便利な点として,左側を塗ると右側にリアルタイムに反映されますが,右側も直に塗ることができます.当然パソコンは暖房になり,Blenderが落ちるので,こまめに保存した方が良いです.ちなみに,画像をpngでダウンロードして,他のペイントソフトで塗ることができます.*4

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色塗りが終わったらモデルに適用してあげます.プレビューだと見えていますが,適用されていないこともあるので,エディタをShadingにして下の図のようにノードをつなぎます.新しいマテリアルの作成をするとPrincipled BSDFとMaterial Outputはデフォルトで存在するので,Vector->Mapping, Texture->Image Texture, Input->TextureCoordinateを作成します.図のように繋いだらImage Textureの画像のところに先ほど作ったテクスチャを選択します.kawacolorって書いてある部分です.

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3.ボーンを作る.

鬼門っぽい.Blenderの操作の慣れが必要になるのでしんどいです.VRoidだとすでに設定されているので楽ですが,ボーンの自作はなかなかしんどいです.オブジェクトの中にArmatureというのがあって,これがボーンになります.ひとまず下の図を完全に真似してください.名称も,NeckとかUpperArm.Lとか書いてありますが,これも一致している必要があります.(腕だけ見づらいのでアップにしました)

ほぼこれですね.

styly.cc

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これを作ったらObjectモードでアバタを選択して,その後Armatureも同時に選択してObject->Parent->With Automatic Weightsで関連付けします.そうするとボーンを動かすと胴体も一緒に動くようになります.

ここから調整です.自動的に関連付けされていますが,腕を動かすと腰がえぐれたり,足を上げると中身がはみ出したりするので調整します.基本的にはPoseモードで確認とWeightsPaintモードで調整を繰り返します.

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各Armatureを選択して,グリグリ回してみます.Clusterで動かす分にはUpperLegとUpperArmとHeadが綺麗に動けば問題ないです.カワウソの頭が伸びていますが,僕は気にしていません.*5一応歩行する際に動きそうな軸は全て試した方が良いです.

調整はWeightsPaintです.各Armatureを選択すると,アバタが青〜赤に染まります.Armatureが動いた時に,青い部分は動かず,赤い部分は動きます.緑色とか黄色だとちょっとだけ動きます.

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今は右足ですが,赤い部分,太腿の部分だけ動きます.Poseモードで腰がえぐれる場合は腰の部分も赤くなっているので,腰を青くします.同様に他の部位も直します.

 

ここまできたらアバタ自体は完成です.ファイルのExportから.fbx形式を選択して書き出したら,Unityを開きます.

 

4. Unityで変換する

基本的には先ほどの記事の通りなので,追ってください.

note.com

VRoidなら基本的に問題ないと思うのですが,自作した場合のハマりポイントを紹介します.

Humanoidに設定する際にエラーを吐くことがあります.Blenderで一度モデルとArmatureを関連付けしましたが,Unityで再度くっつけます.この時,何かしらの理由で関連付けをミスるとうまくくっついてくれないので自分で設定し直す必要があります.*6エラーを吐いたらそのままエラーメッセージをコピペすれば解決します.(調べていた記事を消失しました…以下,問題を再現できないので文字だけの説明です.問題が起こらなければ無視して良いです)

character is not in T poseの場合,キャラクタがTポーズになっていないだけなので,ConfigureからEnforce T poseでTポーズに直せばOKです.関連付けがうまくいっていない場合,その部位を個別に選択するだけで解決することもありますが,一応MappingをClear,ポーズをSample Bind-Poseに変更,その後MappingをAutoMapで設定して赤い部分の部位を設定し直し,Enforce T-Poseすると直ります.このあとがハマりポイントで,Configureの直後はApplyボタンが押せません.一度何か別の項目を変更してからApplyする必要があるみたいですが,適当にいじると今やった変更がリセットされます(辛い).Configureの少し下にあるOptimize Game Objectにチェックを入れてApplyするとうまくいくので,Applyできたらチェックを外してもう一度Applyするといった面倒な手順を踏んで解決しました.

 

最後に,手順は書いてありますが,.vrmを書き出します.

 

5. Clusterにアップロードする.

Clusterを開いたら,右上のタブからアバタのページを開いてアップロードを選択,作成した.vrmファイルを投げれば使用できるようになります.Clusterでワールドに入る際に毎回使用するアバタを聞かれるので,その時に選択すれば自作したアバタが動いてくれます.嬉しいね.

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初対面の人にチョークで"カワウソカワイイ"って書いてもらいました.嬉しい.

 

ちなみに,アップロードした際にアバタに変な影がついてしまうことがありました.多分モデリングの仕方がよくないのですが,ひとまず解決する方法としてUnityの設定でMaterialのShadingを変える際にVRM/MToonからVRMの他のオプションに変えると影が無くなったりします.この辺りはいろいろ試したいですね.

余談

カワウソの尻尾を実装し忘れました. 

 

 

 

*1:基本的にはBlender モデリングとかでググることになります

*2:細かい部分などは頂点が消えたり形状がフラットになってしまうことまり,良い感じにならないこともある

*3:正面から見ているのでy軸の線が表示されていません

*4:あとでアップロードして適用する必要がありますね…

*5:Clusterに萌軸は実装されていないみたいなので…

*6:多分Armatureの形が良くないとか,その辺りかなと思います

Frustratingly Fuzzy Symbol Representations in Real World Modeling

以前から記号接地について興味があったが,ここ最近どうやら一つの言語の多義性や意味の曖昧性といった事象に対して敏感になり,それらを原因とする問題を見るたびに耐えがたいストレスを感じているらしい*1.あくまでメモ程度だが,自分の記号の理解の仕方と私見を述べようと思う.

言語の曖昧性について

言語の曖昧性といってもいろんなものが考えられる.表現については齟齬がありそうだが,僕が気になったものを挙げると,

  • 全ての物事に共通しないこと:例えばりんごの定義を考えると,”赤い”とか”丸い”とか色々考えられるが,赤くないリンゴもあり,丸くないリンゴもまぁ作ろうと思えば作れるだろう.また,ジェンダーに関する認識もそうであり,意味が時間的に流動的な記号もこの性質を持つと思う.
  • 定義の決定が難しいもの:死の定義は色々あるが,一応概ね不可逆なものという認識がある.この不可逆を定義して,医療現場について詳しくないのであれだが,医者の方は死亡を判断する.基本的に死亡したと判断された方は息を吹き返すことはないが,ごくまれに吹き返す例がある*2.吹き返すというか,観測の不完全さや判断ミスの可能性もあり医者が定義に基づいた判断を下せなかった可能性があるが,不可逆の定義が不完全だった為に息を吹き返した可能性がある.この定義は科学の進歩によって更新されうるが,少なくとも現在定義の決定が難しい為に現実に即していない,ということがある.
  • 観測主体ごとの認識の違い:僕は”人形”という単語を聞いたときにビスクドールやアンドロイド,そして人の形をしていないものを思いつく.しかし,他の人が人形について考えたとき,例えば日本人形や操り人形といった違うものを思い浮かべるだろう.物事の経験や認識の仕方が異なるだけなのだが,これによって齟齬が生じる.僕がビスクドールの造形を思いながら「人形は美しい」といったときに,操り人形の印象が強い人はその印象から「操られた存在なんて汚い」と言いかねない.
  •  多義性:一つの記号に対して二つ以上の意味が存在すること.しかしこれはりんごの曖昧性とは少し趣向が異なる為,別の項目にした.まず,例を挙げると英単語のbankは日本語でいうところの銀行の他に,岸とか色んな意味がある.りんごの曖昧性は一つの対象に対する定義が定まらない事を示すが,多義性は齟齬を許して言い換えるのであれば一つの記号に対して,”二つ以上の記号で表されるべきもの”が割り当てられていると表現すれば良いのだろうか. 

分析フェミニズム哲学というものがあるらしい

りんごのような意味の曖昧なものを解釈する際の方法として,いくつかの方法が以前から存在していることは知っていた.例えば,共通する要素のみを抽出する方法がある.”赤いことは全てのりんごに共通する”というやり方だ.これは例外の存在からすでに否定されている.これは家族的類似によって「部分的に共通する特徴によって全体が緩くつながっているに過ぎない」と指摘されている*3

こういった問題を具体的に考えている(,と僕が感じた)物事として分析フェミニズム哲学があるらしく,「人工物がジェンダーを持つとはどのようなことなのか」という文章に出会ったことでその概念を知った.

http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/hss/book/pdf/no120_13.pdf

この文章の主題は人工物のジェンダーについてで,問題やその解決のための指針についての分析を行っているが,これは分析フェミニズム哲学の派生として考えられる為,前提知識として分析フェミニズム哲学における議論が紹介されている*4

まず,ジェンダーにおいて女性が誰かという定義についてジェンダー本質主義という,女性や男性が何者であるかを特定できるという考え方があるらしい.

女性とは しかじかである、というを定義することで、女性であるための条件を認める ことになるからである。その結果、女性として人生を送っている人であるに もかかわらず、条件を満たさないがゆえに女性集団から排除されるという事 態が生じてしまう。 

そして,これに対して第二波フェミニズムと呼ばれる考え方が登場したらしい.

統計やインタビューを通じて、女性は自分が目指すべき理想の「女らしさ」が 家事、結婚、育児、性的な受動性などにあることを規範として身につけてい ることを指摘する。彼女の仕事には性別が法や制度上の問題にとどまらず、 女性が社会で活動することへのさまざまな障壁を指摘した点でフェミニストの運動においては価値があるものだ。

しかしこれは中流階級の白人のみに限定される上,女性全てに共通する項目が存在することを仮定してしまう. ”赤いことは全てのりんごに共通している”わけではない.こういった問題に対して,多様性やアイデンティティの複合性を認める為の考え方が第三波フェミニズムらしい.

ジェンダー についての普遍主義的本質主義は、文化相対的本質主義に帰着するだけのよ うに思われる(cf. Narayan, 1998)。そうだとすれば、結局のところ本質主義 に抵触せず語りうるのは個人の体験のみである、ということにもなるだろう。

しかしながら,これも文中で批判されている.というのも,個人の体験のみであり共通の性質を語ることができなければ(個人ではなく集団として)女性が誰であるかを特定することができない為,社会的な構造の性差別の問題を扱う際に不正を被る対象である人が誰であるか特定できなくなってしまう,らしい.

そこで登場したのがジェンダーの新実在論もしくは反反本質主義と呼ばれる立場らしい.今までの問題を要約すると,1.共通性質を持つという考え方は排他性を含む,2.個人のアイデンティティが多様な社会的性質から構成される複合性を損なっている,という2つである.

 

大方のあらすじは以上の通りであるが,それらの調停をできる方法が記述されていない為,Openな問題なのかもしれない.そして,この二つの問題は「全ての要素に共通ではない記号」一般について言えることなのではないかと思う*5

オントロジー

前項で曖昧性に対する問題が明確化されたが,排他性に対処する方法として,観測可能なものを全て記述しきることがあると考える*6.まず,本質主義を仮定するが,観測されたもの全てを書き出すことは理論上は可能だろう.

りんごが概ね赤いがたまに青いものが存在する為”赤い”と定義できないのであれば,”りんごが概ね赤いがたまに青いものが存在する”と記述する,思いつく全ての要素,[色,形,成長方法,根があるか,分類学的に何に含まれるのか,…]といった要素を書き切ることは可能である*7.要するに,観察において必要な観点から書けば良い.

この辺りの議論に詳しくないので誰かに聞きたいが,本質主義は時間変化を許すのだろうか.例えば時刻tにおいて共通の性質Aがあるが,時刻t+1には性質Aは消滅し新たな共通の性質Bが現れるといったことは可能なのだろうか.これが可能であれば時刻tごとに要素を記述することを許せる.

僕は本質主義をほぼ全く知りません.なので,適当なことを書いていることに留意してください.

さらに,分析によって新たに得られた知見を記述に使用する.

例えば人工知能ダートマス会議で人工知能と呼ばれたとき,その方法の例としてはニューラルネットワーク自然言語処理,コンピュータといったものが存在していたと思われるが,現在ではその分類の様相も変わっている.

以下は現在の人工知能研究のMapである.

https://www.ai-gakkai.or.jp/pdf/aimap/AIMap_JP_20190606b.pdf

認知科学・問題解決・知識推論・学習といった段階ごとの分類や,さらにその中の詳細な分類も記述され,例えば認知科学ならニューラルネットワークや計算論的神経科学,知識推論であればスケジューリングやHuman Agent Interactionといった分野が存在し,そこをさらに掘り下げることもできる.

こういった詳細な記述が可能となっていれば,広く全体を指す場合に”人工知能”と呼び,特定の要素に関しては語弊のある意味の広い表現を使わず,”機械学習”と呼んだり”エキスパートシステム”と呼んだり,適切なレベル感・観点から呼ぶことができる.

齟齬の発生

記号の意味の解釈は人によって異なるが,これが問題となるのは直接的にコミュニケーションをとる場合に限らず,間接的なコミュニケーションとして誰かの書いた本を読んだり人が解釈した記号を他の人が解釈する場合に起こりうる.そもそも完璧に意図を伝達できるコミュニケーションというものが人間にはとても高度である.

例えば考えられる方法として厳密な定義の記述が考えられる.数学はその定義が存在する.何に応用できるかとか派生する表現の捉え方は違うものの,定義に関しては(理解していれば)共通の意味を共有ことになる.僕の表現能力が悪いのが原因だが,これはトートロジーで共通の意味を共有できず齟齬が生じた場合少なくとも片方が理解できていない感じがしてしまう.数学の優位性をサポートする良い表現を見つけたい.

さて,なぜ完璧に意図を伝達できるコミュニケーションが難しいのか.これは二つ思い当たる節がある.まず一つ目に,数学のような厳密な論理的記述が多くの人間にとっては難しすぎることが挙げられる.そして,二つ目に複雑な事象の詳細な記述は骨が折れることが挙げられる.人工知能研究のMapを全て暗記して,さらに過去の研究の概観を掴むのは相当骨が折れるし,全ての物事でこれをやるのはほぼ不可能である.青いリンゴがあることを覚えておくくらいなら簡単だが,一人の人間が世の中の記述しうる全ての物事を全てしることはできない.その知識の差によって問題が生じる.

だいぶ大きな議論をしてしまったので現実的なことを考えると,各個人が持つ前提知識はある程度推論できる.例えば理工学部生なら(微積分の講義を履修している確率が高いので)微分の定義を知っているだろうとか,おしゃれな服を着ているのでファッションに詳しいだろう程度の推論ができ,相互適応することが可能である.問題となるのはその齟齬が解消されない場合である.知識の差が大きすぎて埋めきれない場合がある.例えば僕はプログラミングの知識を若干なりとも持っているが,その全てを初心者と共有するのはとても難しい.プログラミングを学んでくれれば良いが,頼んでも学んでくれない人もいる.その場合には溝が埋まらない.そういった問題が世界でたくさん起こっている気がする*8

Word2Vec的解釈,階層性・曖昧性・多義性について

ここ最近では上記の様な具体的な問題や考え方をしていたが,元々人間の話す言語を自然言語処理の手法によって記述することのみに興味があり,最初はオントロジーシソーラスといった具体的に記述する手法に興味があったが,Word2Vecを知って以来統計的な言語処理による記述に興味を持った.人間の使う言語にはしばしば非文や”正しい表現”からすれば間違った表現が生まれ変化していくが,これらを記述する際に人間が全てを書ききることが大変だから,そして”正しい表現”を仮定したくないからである.

まず,基本的なものを考える.まず,分布仮説について言及している文献より,*9

 単語の分散表現のアイデアは,1950年代に提案さ れた分布仮説8)に遡る.これは,「単語の意味はそ の単語の出現した際の周囲の単語(文脈)によって 決まる」という仮説である.

Word2Vecは「分布仮説に基づいて同じ文脈から現れる単語をベクトル空間上の近い位置に配置し,近い位置に存在する単語同士は意味も近い.」というのが僕にとって一番わかりやすい説明になっている.流石に勾配降下方程度の知識は知っていた方が良いが,ベクトル表現を学習する際の目的関数はまさに先の文言を表している.

一応イメージがわかない方のために記事及び図を紹介する.

word2vec:Pythonで単語ベクトルを作成する - IMACEL Academy -人工知能・画像解析の技術応用に向けて-| エルピクセル株式会社

 そして,記事から以下の図を引用する.

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本来もっとベクトル表現はもっと高い次元で行われるが,雑に前提知識として入れておくのであれば,二次元で可視化した結果として,ラーメン・ステーキ,ピザなどの単語は食べ物という点で似た意味を持つという程度で良いと思う.

さて,この表現はベクトル空間上に単語を埋め込むものであるが,この表現で記号と概念の関係を十分表現できるのだろうか.因みに,そもそもこのベクトル表現は世界を表しているわけではないし,単語ごとの関係によってベクトル空間に埋め込まれるので言語情報に現れない様な他のモダリティは考慮されていない.その点には目を瞑った上でWord2Vecの拡張を考えてみる.

まず,ベクトル空間は決して現実世界を表しているわけではない.その上で,一つの記号が一つのベクトルに割り当てられるとその幅が表現されない.これに対処する方法として確率分布を用いる手法が存在している.

https://arxiv.org/pdf/1412.6623.pdf

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(読んだのが以前なのであまり覚えていないが,)ガウス分布を用いて表現される.意味の広がりを表現できることとして曖昧性に対処することに加え,ここでは意味の内包を扱える点が個人的に面白いと感じた.

ここで多義性の問題を考える.bankは銀行だったり岸だったりするが,単純にガウス分布を用いると分布の平均が銀行と岸(,そしてその他の意味)を表すベクトルの中心の平均をとるため,それぞれの意味から離れてしまう.そこで考えうる案として,混合ガウスモデル(GMM)を用いることを検討してみる.

…まぁ調べたら出てきた.Abstractと図など,一部しか読めていないので間違っている部分はあるかもしれないが,Abstractを読む限りでは僕が考えていることと同じと言って差し支えがなさそうなので紹介する.他の人がちゃんと考えたことは,自分の考えと差異がない場合わざわざ焼き直さないほうが良い.

Multimodal Word Distributions

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rockは岩と音楽の二つの意味を持つよ!ということで,二つのガウス分布の和として表現されている(この図は明確な線がひかれているので分かりづらいが…).言及されているが.意味の内包も表現されている辺りもとても良いし,結構一般性のある表現かもしれない.因みにGMMと他の分布のハイブリッド形式もあるらしいが,こういった表現は現実のタスクにおいては計算が重いし一般的なWord2Vecでも十分表現できているため使われていないのかもしれない.

そして,意味の内包について補足すると,個人的にはこれが好きなので読んでほしい.ベクトル空間にユークリッド空間ではなくポアンカレ空間を用いることで階層構造の表現を可能にしている.シソーラスじゃ〜んと言い切るのはよくないが,数学的な構造に言語の構造を当てはめることができる気がして,個人的にとても好き.LOVE.僕は輪講でやったので論文も読んだが,正直パッと理解する分にはこちらの記事の方が分かりやすい.

異空間への埋め込み!Poincare Embeddingsが拓く表現学習の新展開 - ABEJA Tech Blog

これらはあくまで文章の情報からモデリングを行うにすぎないため人間のコミュニケーションにおける齟齬などは別途その中間のやり取りを表現する必要があるが,ともかく一個人にとっての表現の獲得に関しては可能性を感じている*10*11

「記号の意味の分離性を高めるか分散表現を認識するのが良いかもしれない」という主張

 とまぁ,今まではなんとなく情報を自分の理解の範囲で参照してきたが,ここからは完全に個人の主張である.そして実際にやってくれというわけでもない.不便すぎる.

タイトルの通りだが,ここ最近は多義性で問題が起こっている感じもする.歴史的背景の問題ではなく現在の言語の使いやすさのみに言及すると,GitHubのmasterリポジトリがmainに変わった問題はどうなのかと思った.別にGitHubのmasterはmaster/slaveのmasterではないし,そもそもロボットにおけるmaster/slaveも別に奴隷を意識したいわけではない.これもまた伝聞の情報でしかないし真偽がわからないが,反レイシズムの方達がピラミッドを破壊しようと考えているらしい.脱線しかねない話だが,現代のイメージと違って当時のエジプトの奴隷は割と優遇されていた気がする.

British anti-racism protestors call for destruction of Giza Pyramids - Egypt Independent

要するに,第一種過誤も第二種過誤も存在する.奴隷という言葉にもいろんな意味があるし,現代の人がイメージする差別的な意味合いを表すには十分ではなくて,

方法として, いわゆる差別的な意味合いを持つものに記号を割り当てて,ロボットのmaster/slaveにもロボット操作的な意味合いの記号を割り当てて,masterにはmainが割り当てられていたがそれがmainらしくないのであれば別の記号を割り当てる,といった感じ.

コミュニケーションにおける齟齬に関しても,同じ言葉に対する意味の違いから生じている場合がある.アンジャッシュのコントは結構好きだが,あれは各個人の文脈から推測される状況が異なるために齟齬が生じる.文脈を内包した言語表現があればそれを一言伝えるだけで全ての状況を理解できる.そんな難解な言語は使いたくないが.

結論としては,不便だし先の問題たちから実施が難しすぎるので僕はやりたくない.記号の背景の意味を全て把握して大量の記号を使えるほど人間は賢くないから効率化を図って齟齬のある意味の割り当てが雑な言語を使っている*12 

ただ,これができるほどみんなが賢ければLOVEを正確に伝えられる気がする.

*1:耐えがたいということは無い.Frastratingly Short Attention Spans in Neural Language Modelingの著者らは本当に耐えられなかったのだろうか.耐えられなかったから論文を執筆したのかもしれない

*2:

霊安室で葬儀を待つばかりだった女性が奇跡の生還 - GIGAZINE .記事を参照すると,バイタルサインによって判断されたらしい.

*3:明示的に指摘したのかどうかは知らない,どうなんですか?

*4:この分野に詳しくない為,解釈が間違っている場合には指摘していただきたい

*5:この主張は排他性を含む為,妥当なのかどうか考察を深める必要がある

*6:単に思いつきだが…

*7:そもそも記号自体人間の思いつきなので思いついていない範囲の物事はいったん考えずに思いついた時点で書けば良い

*8:自信がないので明確なことは言えないが,「知識は同じでも善悪判断が異なるために齟齬が生じる可能性はあるか?」という疑問がある.しかし善悪判断自体経験からくる上,それは対象の知識に含まれるのではないかという気もする為,もう少し厳密に議論する必要がある

*9:

http://www.kawasaki-m.ac.jp/soc/mw/journal/jp/2018-j28-1/P167-P178_tanaka.pdf

 ,ひとまず日本語で分散表現について述べている文献を探したのでこの文献の選択はベストではない,本来ならWord2Vecを提案している3本の論文から原文を引用すべきだろう.

*10:数学を勉強した方が良い.妥当な分布が存在するかどうかなど,勘が全くないので何もわからない

*11:計算量とか気にしてはいけない

*12:また,この齟齬がより発展的な思考につながるという側面もあり,単純に否定されるものではない

研究の正しさがわからない

研究で何をすれば良いのか分からない,という話.割と自分の研究対象の分野に限定された話かもしれないので,最初にどのような分野を対象とするか書いておきます.

研究対象

興味のある分野は以下の通りで,大学院で研究をしようとしてる分野はHAI(Human Agent Interaction),その中でも特に身体性を持つエージェントに興味がある為HRIに興味がある*1

人形・機械学習・ロボット・インタラクション・人間・世界・倫理

研究と一括りに言ってもいろんな種類があるので,僕が話題にする対象を先に説明する.

まず,科学研究である.以前哲学との違いについて人と話した時に面白かった話として,科学(特に)工学研究においては仮説を立てて実験(分析)し,結果を見る.その結果に基づいて仮説の更新を行うフィードバックループが形成される.しかし,哲学研究においては仮説の妥当性を自分の頭の中で判断しなければならない.時折哲学は「仮説を積み上げていかず,問題の開始地点を設定したがる」といった批判を見かけるが,僕は哲学研究の外観に詳しくないのでここらへんの断言はできない.まぁ,元々哲学から全てはじまった*2ので,方法論はともかく,扱う対象に関する批判はどうかと思う.

次に,対象は工学と理学が半々だと思っている.あまり理学と工学の違いにも詳しくないけれど,大雑把には「理学は現象の理解(自然科学に限らず)を目的とし,工学は基本的にその対象の改善を目的とする」といった認識でいる.断言できないが,少なくともHAIは認知科学脳科学などの人間及び世界の特性の理解に基づいていて,これは物事の改善と独立したものではないように思う.結果的に工学として扱われていても,現象の理解に基づかない改善は因果関係の記述などもできず空虚な結果であると考える.

もう少し対象を限定すると,人間を対象にしている.Human Agent Interactionなので人間を対象にしているのは自明だが,この辺りに難しさを感じているので一応明記しておく.

研究に対する解釈の難しさ

まず,僕がずっと考えている難しさを列挙する.

  1. 言葉の定義が曖昧
  2. 理論の根拠が論理ではなく報告にある
  3. 評価が直感的ではない

それぞれ順を追って説明する.

言葉の定義が曖昧

論文を読んだり研究の話を聞いていて,専門用語の意味がよく分からないことが多い.というのも,いろんな意味で使われている.用語の意味が難しいことは問題ではないが,ある程度異なった意味を持つ概念が,同じ記号で(しかも同じ分野で)やりとりされているのが問題となっている.以前読んだ論文で,ある単語がいろんな意味で使われているので分類してみました!といったものがあって,それぞれの論文で何が言いたいのか掴むのが難しいと感じた.その点で数学は良い.

この問題に関しては,いくつか自分の至らない点と仕方ない点がある.1.言葉の意味は流動的なので,使われた意味に則るしかない.2. 単語は文脈依存である.3.もっと論文を読んで分野の全体像を掴めば相対的に意味を把握できるのかもしれない.4.そもそも簡潔な記号で明確に定義できる対象ではない(例:感情).

特に4が仕方ないのかなと思うので,論文をたくさん読むしかないのかもしれない.

理論の根拠が論理ではなく報告にある

これは実験系の論文の話だけれど,論文を読んでも分からないことがある.例えば数学であれば公理が存在して定義が置かれて,それに従って証明が進んでいく.そこに現れる記号は全て必要な範囲で一意に定まっている*3.要するに,論文を読めば妥当性が判断できる.

しかし,実験系だと結果は報告によって得られる.例えば実験参加者*4の条件については,執筆者が得られる情報の中で書かれている上に,関係のなさそうなものは情報から切り捨てている.この直感は一流の研究者ならある程度適切にできるかもしれないが,少なくともビギナーは見落としかねない*5.実験設定一般に関しては,機械学習のような機械を対象にしたものはソースコード+マシンスペック+etc…といったある程度限られた条件を記載すれば概ね再現できるように見える*6

実験結果も,何を報告するかが個人に依存していて,最低限研究に対して誠実であるとしても実は重要であった情報が欠落することもある.しかし,論文の読者はこれに気づくことができない.書かれていない情報から判断することができないことが書かれてしまっている.

これに関しては,サブの主張として”研究を行う個人には個人差がある”というものがある.それこそ僕のような卒論を書いただけみたいな人と何年間も研究者としてやっている人にはノウハウの違いがあるし,上手な人はうまくかける.それが目に見えて全て論文の情報から証明できる形で出ていれば良いが,論文内で証明できないものの影響が生じる場合があり,これはあまり良くないと思っている.

評価が直感的ではない

これは僕だけの話かもしれないが,統計の結果,特に実験参加者を多数募る実験はおそらく三つの理由から直感的ではない.

まず,評価が難しいこと.例えば機械学習界隈でよくある例として,単一の精度評価というのがある.逆に,複数の視点から評価をする論文もあり,ドメイン知識に則ってスコアを定義したり,多面的な評価をして単一のスカラー値による評価を避けることもある.これはとても良いが,対象があまりにも複雑な場合には難しいと感じる.特に,言葉の定義が曖昧なもの(例:感情)の評価はとても難しい.単一の精度評価のようなものはもちろん無意味だが,評価項目をたくさん用意して7件法を用いるのは,項目が多すぎてあまり直感的ではない.慣れている人にとっては直感的かもしれないが,人間には限界がある.この世の中は案外シンプルではないので,簡単な評価指標を用いればズレが生じるし,複雑さに見合った評価をすると人間にとって解釈が難しくなってしまうと感じている.

次に,経験できる主体である自己は一つということ.例として,ある可愛いロボットの印象評価を行う.簡単のため評価結果は良いか否かの二択とする*7.100人で評価実験を行い,80人が良いと答え,20人が良くないと答えたとする.自分がどちらかの側にいた時に,もう片方の側の人間の感想は自分にとって直感的ではない.ロボットが良いと答えた時に,良くないと答えた人がなぜ良くないと思ったのか,インタビューを行って理由を聞くことはできるが,だからといってその人の理屈を想像しただけで体験することはできない.他人には自分にとって非自明な思考が働いていて,想像できることは割とシンプルなことだけだと思う.

80人にとって良い結果が得られました,という回答は解釈するには少し難しくて,それぞれの人がなぜ良いと思ったのか,またそれ以外の人はなぜ良くないと思ったのか,ということが分からないといけない.この問題に関して補足すると,良い論文は因果関係の考察のために数値的評価だけではなく個々の事例についての紹介をすることも多い.しかし,理論の根拠が論理ではなく報告にある為に,紹介された事例について疑いを持った時に根拠となるものが存在せず肯定も否定もできなくなってしまう.

あとがき

あまり研究の方法論や評価について詳しくないこともあり,僕の考えは割と曖昧な部分が多いと感じています.それこそ,僕が感じたこれらの疑問に答えるための手法が既にあるか,ある程度諦めて進めているものと思います.ただ,何をすれば良いのか,という点で悩むことが多いです.

他にも二つほど考えていることとしてHAIは自由度がHumanだけではなくAgentにも存在するため高次元すぎて難しい,科学研究の積み重ねがどのように行われるべきかという話題があります.思い立ったら今度書きます.

 

 

*1:しかし,実際に研究でロボットを使用できるとは限らないので身体性とは??となるかもしれない

*2:ゴミみたいな断言

*3:定まっている,というより証明のために最低限その必要があると言うのが正しいが,ともかく明確に定義されている

*4:いわゆる被験者だが,この単語はあまり良くないので用いない

*5:もちろん研究者であっても交絡因子の存在に気づかないこともあると思う

*6:あまりたくさん読んでいないものに口出しするのは良くないし,機械学習も難しい点はあると思う.それこそソースコードが閲覧できなかったりデータセットがオープンではないこともあるらしく,僕が知る限りでもそういった難しさがある

*7:本来この評価はよくないが,ここでの直感の考え方には関係ないと思うのでこの評価とする

人間〜!!

推しの作家さんとかアイドルとかいるけど,難しすぎる.

非対称な人間関係が形成されると*1,物事はややこしくなる.一人の人間としての接し方がわからなくなる,他のファンの人と推し方が異なることがあり,何が正しいのかわからなくなる.メルマガなどの仕組みはコミュニティの形成に役立ち,情報伝達にしろ伝達を目的としないコミュニケーションにしろ,とても役に立つ.Twitterもそう.

ただ,自分の関わり方が正しいのかわからなくなってしまう.

自分の愛し方で好きでいたいので,他の人が存在すると関わり方が非常に難しい.

 

 

これはエディタからはみ出たLOVE

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*1:人間関係は基本的に非対称だが????

経過

関東に帰ってきてから一ヶ月ほど経ったけど,未だに関東にいる感覚が戻っておらず,自分が何をしているのか分からない.久しぶりに実家に帰ってきて,親に食事を作っていただいたり布団の質が上がっていたり,実家のような安心感を覚えることがあり,その点では帰ってきた感じがする.

しかし,今まで友人がほとんどいない環境で研究と生活以外の物事に時間を使えなかった頃から,何か変わったかと言われると大まかにはそれくらいである.休日は元々家にこもって本を読んだりボウっとしていたが,寧ろ平日も家から出なくなった分以前より生活環境は悪化しているかもしれない.*1

みんなもそうかもしれないが,日々の情報量が格段に減っている気がする.同じ日々を過ごしていると感覚が狂ってくる.

まず,以前について

8ヶ月ほど関西にいた.卒業研究の為にしばらく集中できる環境に身を置くことと,研究について学び自分が何をするべきか考えることを目的に,引っ越した上で忙しい日々を過ごしていた.

一人暮らしによって,生活の全てが自分の責任になり,全てを掌握できることがとても自由でよかった.要するに,食生活が悪化した.生活に関しては,夜以外はほぼ家にいなかったので語ることはあまりない.*2

基本的に家と会社の往復で研究関連の物事しかしていなかったので,講義・研究・趣味・など様々なことに追われていた日々と比べると比較的単調だった.少しずつでも物事が進んでいくので,単調とはいえ退屈なわけでもなかった.また,自分が何をしているか考えるほどの余裕もなかったので,その辺りに悩まなかった.

ここ最近の生活を占めるもの

COVID-19

特に自分と同年代の学生については多くの人が同じ状況だと思うが,基本的に家にいる*3.オタクの皆さんは家にいるのが得意なので楽しい日々を送っているかもしれないが,割りかししんどくなってきた.

よく考えたら似たような生活が9ヶ月ほど続いていた.関西にいた頃は外に出られていたという違いがあったが,関東に戻ったら友人にたくさん会おうと思っていた矢先に会えなくなってしまったので,仕方ないとはいえ長めにこの生活をしている感じがあり,確かにしんどいなと納得した*4

研究

研究は二つやることがあって,一つは修論に向けた新しいテーマを考えること,そしてもう一つは卒業研究についてである.

まず,新しいテーマについては全く新しいものを考えていた.というのも,卒業研究は早い段階でテーマを決める必要があったことも含め,自分でテーマを決めなかった.一年間の学部生活の中で練っていこうと考えていた(そもそも大学院で研究を続けるべきなのかどうかも考える対象だった).ここ最近はやりたいことを調べていて,ついこの前相談したところ,痛いところを突かれて敗北した.とても納得はしているが,自分がやりたいことはなんなんだろうと考えすぎて,少しナーバスになっている.

そして,卒業研究については学会に向けて書き直している.しかし卒論の時期に忙しすぎてあまり深く構成できていなかったことと僕が人に伝わるものを作るのが苦手なことによって非常に時間がかかっている.これは単純に僕の能力の至らない部分が大きいと自覚しているが,まぁ辛い.

その他

その他があまりない,要するに上の要素で生活がほぼ完結している.その要素の少なさが辛さに直結している面もある.娯楽が非常に消費的なものばかりで,活動的なものは制限されているか気が乗らなくなってしまっている.久しぶりに家から出たらそれだけで目や肌に入ってくる情報量が多くて驚いてしまった.目の前にものがあると「草!」,「建物!」と声に出してしまうことがよくあるが,葉っぱがあったり,その葉っぱが黄色いことの情報量がとても多い.そんなわけで家から適度に出た方が精神衛生上良いが,魁!!男塾グラップラー刃牙は是非履修してほしい.

 

瑣末ごととして,無生物が増えた.Qooboはとても良くて,物事に集中しているときにわざわざ擦り寄ってこないし,逆にQooboに気を取られるような状態は集中できていないので休憩を挟む目安にもなる*5.撫でるとそれに応じて尻尾をふるが,ほぼ焚き火になっていて,撫でながら尻尾の動きを眺めるだけで時間が溶ける.

そして右にいるウサギは耳が動くが,9Vのアルカリ電池一つではサーボに十分な電力が供給されないのだが,持ち運びできる電源を持ち合わせてない為PCかコンセントに挿す必要があり,要するに面倒なのであまり動かす機会はない.

真ん中の子は胴体を実装したら手足をぶらぶらさせてみようと考えていたが,時間がかかりそうなので生きてるうちになんとかしたい.人間には無生物を動かしたい根源的な欲求が存在するが,生物としての時間を消費して無生物を動かす為の方法を考えるのは効率が悪いので,死んだらそれと引き換えに動き始めて欲しい.

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自室無生物界隈

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:主に精神的な面で

*2:夜中にドアをノックされ,応答したら英語で話しかけられてびっくりした記憶がある.

*3:そうではない人が多くいるのも承知しているが,少なくとも同じ状況の人も多い.

*4:3月末に関東に帰った時と4月初めに学生証配布があったので大学の人間には少しだけ会っている.

*5:まぁ休憩しないが…

完全教祖マニュアルを読んだ

とある後輩が,ゆるふわだったサークルをカルト教団と化させ,体育会系に染め上げた.

その人が以前読んでいた本が完全教祖マニュアル.とても気になったので読んでみた.

*あまりきちんとまとめないので,本を読んで欲しい.とても面白かった.

 

思ったよりまともだった

よくある怪しい自己啓発本ではなく,キリスト教イスラム教といった古くからある宗教を含めた多くの宗教を分析し,その特徴や成功のためのエッセンスを抽出したものだった.特に,宗教の耐えきれない怪しさは,実は合理的な活動であることを丁寧に説明していた点はとても良かった.

また,新興宗教に対するイメージの悪さを承知した上で,現実的に教祖になるための方法論を記述していた.

まず教義の作り方を説明し,信者を集めるための布教の方法を説明してから信者を保持するための教義の更新など,順序立てて章が組まれていてわかりやすかった.

良かったもの

まず,似非科学らしい印象があったのだけど,公理をおいて,その前提の元展開される思想は至極論理的なので,前提条件に納得できるかどうかをクリアすれば良い,という説明があった.また,教義を考えるにあたって,前提と問題点を考えてインテリに投げれば面白がって間を補完してくれるらしい.

基本的には信者がハッピーになることが最優先で,ツボを売っても寄付を募っても信者がハッピーになれば良いらしい.

偶像崇拝はものがあった方が信仰しやすいとか,断食などのルールも特別感の演出に使えるなど,合理的な理由があるらしい.