人間のあるべき姿の探索

思索・人形・エンジニアリング

研究の振り返り

はじめに

大学院でやることが大体終わったので,研究室配属からの振り返りでもして成仏させておきます.まとめると,辛い部分が多かったけど学びが多かったです.

研究室配属〜B4

興味のある分野の研究室に配属されました.今思えば研究のことを何も分かっていませんでしたが,多分最善の選択だったと思います.ただ,二つの観点から研究室の選択が最善だったのは運の良さで,結局選ぶのは難しいと思いました.

  • 興味分野が固まっていないこと:研究室配属時点で研究ができるほどに興味が固まっていることは稀で,とりあえず与えられたテーマを進めたり学んでいく中で知る,ということが多いように思います.
  • 研究か勉強か:研究の目的は大雑把には新しいことの発見で,既にあるものを深めること自体には意味がないので,その点に気づいていたかは重要だと思います(教育や分野の発展など,勉強にも意味はあると思います).なので研究したいことと勉強したいことが別と言った場合にどうするか困るなと思いました.例えばMachine Learningのアルゴリズムについては勉強したいだけで研究でやりたいかといえば否で,それがどのように人間理解・コミュニケーションに適用されるのかをやりたいと思っていました(実際はそれらについても知りたいだけ,というか新規性ではなく俺たちの積み上げた知見で作った最強のロボットが見たかっただけなので,これは企業でやるものですね).

ここら辺から読むのが疲れると思うので,一応閲覧注意にしておきます.個人的な振り返りなんて読んでも楽しくないですからね.

それはそうと,卒業論文の執筆を兼ねた研究インターンで京都に行きました.僕は研究の方法について一通り経験を経たM2でいくべきではないかと相談しましたが,B4で行くべきだとのことでB4で行きました.これは僕にとって大きな学びとなりましたが,人生的にはかなり最悪でした.

まず,良かった点として分野をリードする研究者がどのように研究を行うか,そのプロセスを自分が行う過程で知ることができた点があります.そしてとてもハードな経験でした.僕は勤務先の近くに部屋を借りることができたので,終電の概念を気にする必要がなくひたすら研究のことを考えることができました.また,課題解決の為にひたすら考える・手を動かすことも学びました.その過程で,その後の大学院での生活・研究に役立つような知見が得られたと思っています.これらの点について今でもとても感謝しています.

次に,良くなかった点として働きすぎたことがあります.まず,実験場所と勤務先が別で,6時に起きて片道2時間近くかけて実験場所に向かい,2~8時間実験を行い,その後は相談をしたりして夜になったら帰る生活が60日くらいありました.最悪な日は23時に帰宅して次の日の7時に家を出ていたので,睡眠時間があまりない日もありました.また,絶対に遅刻できない為睡眠が浅かったこともあり,考えすぎで夜中3時に目が覚めて実験仮説はこれで良いのか…!?と夢の中の延長でひたすら悩んで泣く日などがありました.結局実験場所にいた日と勤務先にいた日が同じくらいだったので,単純に仕事の観点から勤務場所が後から知らされたことは良くないと思いますね.これは事前に知っておけば良かったのですが,僕は睡眠時間が足りないとあまり思考ができず「この検証方法は妥当なのか?」一つの問いが浮かんだときにその問いが意味を持たないただの言葉として頭を通り過ぎる感覚になることがわかりました.慢性的に睡眠があまりできない状況に置かれるとよくないのですが,卒業のために避けられませんでした.特に,私は作業をしていなかったわけではないのですが実験設定の検討に時間がかかったこともあり,卒論発表前日まで実験を行っていました.しかし,この実験は規定の労働日を超過する必要があるのですが,これを断ると僕は実験ができず卒業できなくなってしまうので,体力の続く限り働く必要がありました.当時は余裕がなく,本気で「倒れて留年するか生きて卒業するか」と考えていたのを今でも覚えています.

そして,予想通りというかB4時点でこのような経験をさせていただいたことは裏目に出ました.大学院生であれば研究室によっては指導教員や先輩から教育を受けることもありますが,僕が研究をさせていただいた場所ではそのようなことはありませんでした.これについては僕の確認ミスもありましたが,とにかく研究の仕方がわかりませんでした.例えば,論文は「序論」「関連研究」「提案」「実験」といった構成からなり,実験は仮説を立てるが,被験者内/間の実験計画があるみたいなことを知らず,それを知らないまま「このシステムはどのように検証するべきか?(仮説はどう立てるか?)」と言った質問をされて,フレームワークもないまま悩むといったことがありました.何かしらの自動的に計測される指標で数値的に測る,アンケートで数を比較する,など色々あると思いますが,それらを知らないために「アンケートはどうですか?」と提案することはできないのですね.また,慣例を知らないためにどの程度正しそうかを知ることができず,聞いても自分がどう思うかを重視されました.今振り返ると,正直天下り的に進めた方が良い部分が多いのではないかと思います.僕は慣例を知らない状態でこのような手法ではどうか?と聞いても,カンが掴めていないので的外れなことを言ってしまい,それは明らかに違うのではないか,みたいなやりとりを無限回繰り返し,僕は発言をすることが無駄だと学習しました,良くないですね.また,プロジェクトや今までの研究の流れがあって存在するテーマのはずなのに,あまりそれらの背景について教えてもらうことができませんでした.これについては僕がもっとしつこく質問するべきでした.これらのポイントは,僕が事前に知識を持った上でもっと主体的に取り組むことができれば問題なかったのかもしれません.また,個人的な短所として新しい課題に取り組む際の要領があまり良くないので,OJT形式はとにかく苦手でした.また,困った時は指導教員などに早めに相談した方がよかったですね(知らない土地に一人,でそう言った発想に至らなかったのは良くなかったですね).

M1

B4のテーマが論文を出せていなかったので,それを進めつつ新しいテーマを探すことになりました.半年ほど無理をしていた関係でだいぶ自律神経が壊れていたのと,丁度実家に戻った瞬間に初めての緊急事態宣言が出て自宅から出られなくなってしまったことで,これからの半年くらいは精神状態があまり良くなかったと思います.研究についても,あまりうまくやれなかったことや同期が既に学会に論文を出してAcceptされていた負い目もあり,大変な状態でした.向こうにいた際に自分が何かを提案して,的外れであることを指摘されるのを何回も経験したので,自分から何かを提案するのが怖かったです.論文執筆はそのような感じで進み,そしてオンラインに慣れていないことやミーティングで詳細な話ばかりしてしまい全体の進捗管理などもうまくできず,といった感じで本当に要領が悪く,申し訳ない気持ちが募りました.このままでは死んでしまうのではないかと思っていました,今は生きています.

新しいテーマに関して,先輩方と相談したり一年間考えていたことについて話しました.最初の一年で自分からテーマを提案し議論する経験をしてこなかったので研鑽されておらず,これらは基本的に却下されましたが,学びはありました(一貫して,僕のやりたいことは研究でやることではない・心理学っぽい・人形を作りたいであることが明確になったのは良いことでした).というわけで,テーマについては指導教員と相談して決める感じになり,テーマが二転三転して…となりましたが,ある程度与えられたテーマで調べていくうちに興味を持って取り組むことはできたと思います.修士で取り組んだテーマについては,結果はともかくポジティブな気持ちが強いです.

学部で取り組んだテーマはなんとか論文になり,本当に共著者の方々には頭が上がらず,国際会議に通りました.しばらくして発表に向けた準備を始めますが,この時点で僕の能力や精神状態に限界があることを察していたのか,発表をするか他の人に任せるか質問されました.勿論就活などの関係もあり単にそれらの理由だった可能性もあります(ここは完全にやめ時でしたが,断る理由を明確に述べられませんでした).

結論から言うと,発表できませんでした.本当に申し訳ないことをしてしまいましたが,割と直前で僕がまともな発表資料を用意できず,発表練習で本当に良くない空気になってしまったので,やめましょうということになりました.資料については前々から述べている通り自分で提案する気力は無くなってしまい,細かい修正を繰り返す内に時間を失い,練習する時間が取れませんでした.また,英語の会話能力に問題があるので事前にそれを伝えていたのですが,なまじ他のインターンのこと会話ができているように見えたために問題だと認識されていませんでした(日本語で言いたいことを英語で表現できるスキルがない為,時間を埋める為にベストではない英語表現を多用する,といったことがありました).成功経験がなく指摘を繰り返される,というのを1年半以上繰り返したので,この時点で精神は限界でした.2回目の休養すべきポイントでした.ちなみに発表はオンラインで僕はずっと眺めながら負い目を感じていました.国際会議に通った経験は完全に自分の中では良いものではなく,周りからその事情を知らずに何か言われることに対しても負い目を感じました.

ここら辺で読む方も疲れると思うので一応述べますが,今は比較的これらにとらわれずやりたいことを頑張っています.人形を作っています.これから就職してソフトウェアエンジニアになります.激しい喜びはいらないですが,その代わり深い絶望もない,植物の心のような人生を送っていきたいですね,淡々と.

M2

反動で,しばらくお休みしていました.といっても休学ではなく,研究テーマについてはゆっくり検討しつつやりたいことをやっていました.勿論やりたいことをやる体力はないので寝たりぼうっとゲームをする時間が多かったです,外にもあまり出られないですしね.色々あってここから年末くらいまでだんだんと回復して元気でした.研究テーマについては議論する中で最後に7月に変更することになり結構時間がなくなりました.そこから仮説立てて実験設定決めて…とやっていましたが,とにかく仮説が厄介で,いくらでも仮説の立てようがありどれを実験するかで悩みました.(また,完全に愚痴ですがベースとなる社会心理学の概念が曖昧で実証方法についての指摘も多く,こちらの分野の研究ですらその概念を曖昧に引用していて本当か?となり,瓦礫の上に云々…と思いました.ただ,これに関してはただ非難するだけではなく瓦礫を固める一員とならなければいけないのかなと思います.とても重要な知見を与えてくれるし,全てが怪しいわけではないと思うので,真摯に向き合いたいですね).

スケジュール的には夏に実装を大方済ませて9月ごろから予備的な検討をしつつ実装を詰めて,11月から12月後半にかけて予備実験しながら仮説の検討,本実験の実施,1月は分析といった感じでだんだん追い詰められていました.本実験実施まではやるだけという感じで平穏な気持ちで淡々とやっていましたが,分析がとにかく心を乱されますね,仮説が成り立たない!の先の発見もあるので丁寧にやるところでしたし,面白い結果が出ることが全てじゃないですが,そうはいっても論文誌は面白い結果を求めるし,最終的に回覧時点で面白い結果はあまり出なかったと認識していますが,出れば終わり,出なければギリギリまで分析といった感じで結局修論の回覧前日まで分析を続けて二転三転して…といった感じで精神衛生的によろしくなかったです.今現在は結果はどうあれ収束したので落ち着いて今は割と元気です.ちょっと良くない状態が続いたのでご迷惑をかけた各位には謝らなければな…と思っています.

また,想定した結果は出ず苦労しましたが,修士で結果が出るかわからないようなテーマを扱うことができたのは良かったと考えています.研究プロジェクトや企業で何かするとなると,一定期間で成果を出すことが求められ,自然と成果を出せそうなものしかやらなくなってしまうので,勿論成果を出す努力をした上で落ち着いて検討する時間があったのは良い経験だったのかなと思います,

そして,研究室では指導教員や先輩方に色々ご指導いただいてなんとかやっていけたので,本当に頭が上がらないです.

といった感じで自分の精神がもつ範囲で真面目にはやってきましたが,結果はともかくその過程で学びはあったし,一つの分野にしがみついて時間を過ごすこと自体今まであまりやってこなかった貴重な経験でした.よかったね.

終わりに

これといって書くこともないですが,この3年間は本当に良い経験になりました.学んだことは以下の通りです.

  • 研究に関して,分野のことや分野に限らないテーマ設定・サーベイ・実験の実施・プレゼンテーションの技術などを学びました.これらは適切な環境で主体的に努力すれば少しは身につくのかなと思います.
  • 相談は早めにしたほうがよくて,何を相談すればわからない時はその旨を伝えたほうが良いです.そして,これは進捗ではなく助けを求めることも含んでいて,誰かにSOSを出さないと精神などが死にます.
  • 生活や健康は守った方が良いですね.自律神経が壊れて中々戻れなくなります.
  • 色んな環境に飛び込むことは良いですが,その環境が親切であるとは限らず,きちんと自分の実力を見積もってできそうかどうか事前に判断する必要があることを学びました.私はあまり要領がよくないので,丁寧にゆっくり学びながら生きた方が人生設計として平穏にやっていけると思いました.

生存バイアスという言葉がありますが,成功した人だけが体験記を残すのは現実を描写するには足りないと思います.逆に大きな失敗をした人だけがそれを文字に残すのも極端なので,こうして死にかけの状態を残すことにしても良いかなと思い,せっかくなのでこの文章を書きました.これからは元気にやっていけると良いですね.