人間のあるべき姿の探索

思索・人形・エンジニアリング

ドグラ・マグラを読みました

精神状況があまり良くないので夢野久作先生のドグラ・マグラを読みました(3年ぶり2回目).展開について話すと軽いネタバレが発生しかねないので,今後文庫本700p程度を読む気力がある人はブラウザバックしてください.

感想(若干のネタバレあり)

以前読んだ時は正直難解でよくわからないという感想だったけれど,今回は比較的丁寧に読み進めて内容が理解できた気がする.難解なポイントはいくつかあって,是非2周くらいすることをお勧めする.

  • 肉付けの具合がすごい:小説の中に参照される情報が多く,『胎児の夢』という論文やこの世の精神病の扱いや問題を嘆く「キチガイ地獄外道祭文」,ある事件に関する事情聴取に関する詳細な記述といった情報が各20~30pくらいの容量で現れる.物語の途中で自然に現れるけど,それらにのめり込んでしまうとどんな文脈でそれが出てくるか忘れてしまう程度には詳細に,濃く描かれている.しかし,読者に対して飽きさせず物語に戻ってこられるような誘導もされていて,著者も人生をかけて書いただけあるなと思った.
  • カタカナが多い:‥‥‥ブウーーーーン……やブスリという擬音から,会話中の「エッエッ、ソンナことがあったのですか」といったように各所にカタカナが散りばめられていて,それが不気味さを演出している.内容自体グロテスクで混乱する
  • シンプルに内容が難解:主に会話をする登場人物は記憶喪失の主人公・法医学者の若林博士・同期の天才である正木博士の3人のみだが,2人の博士により主人公が関わったとされる事件について詳細に語られる.その事件に関連して,正木博士の数十年に及ぶ研究として「狂人の解放治療」や「脳髄論」といった要素が登場するが,これらが現代科学の唯物論的な観点を逸脱している為,一度常識から外れて主張を受け入れつつ理解する必要がある.突拍子もない難解なそれらの要素が密接に結びついて物語が緻密に構成されている為,関連を覚える必要がある.また,ミステリ的な要素として常に事実らしいものが覆される可能性を孕んでいて,物語を読み進める際に前提として確実な情報を脳の片隅に置いておくことができず,常に”書きかわる可能性のある暫定的な事象”として扱う必要がある.それが簡単な物証的な証拠ではなく人間の認識に関わるものなので,タチが悪い.
  • エログロナンセンス的なキツさ:著者の本として,他に少女地獄は読んだことがあるのだけど,基本的に薄暗く吐き気・胃の痛くなるような苦しさが続くような作品で後味も悪い.スプラッター的な激しさはないが淡々と,かつ暗く激しい感情や行為に満ち満ちているのでこんなにも辛いものがあってたまるか!という気持ちになる.個人的には「それだからいいんじゃあないか!!」と思うけど.

その他の話(もう少しネタバレあり)

作中のトピックは結構人々を魅了するものが多く,二次創作も多い.個人的に脳髄論の脳髄は電話交換局でしかない!みたいな唯物論的現代科学の批判は議論に穴が多いかもしれないな…と感じてしまったが,あくまでフィクションとして胎児の夢というテーマはとても好きだった.胎児が産まれるまでに進化の歴史として微生物から魚・猿・そして自分の代に至るまでの人間を経験し,その残虐で苦しみに満ちた歴史を追体験する悪夢というのはストーリー的に確かに良いよね,と思う.具体的に発現するそれらに関してはもうちょっと現代科学的説明の付け方の方が検証可能な点で妥当性あるよな〜と思いつつも,夢を見ているようなキミの悪さはとても好きだった.

2次コンテンツ

東方projectで古明地こいしはユング集合的無意識などを題材にした技(スペルカード)を使用するのだけど,その中に胎児の夢というものがあり,とても綺麗なのでぜひ見てほしい.東方作品の弾幕はその形だけではなく意味付けの美しさがあるので是非他の技も,特に古明地こいしに関しては見てほしいのだけど,この弾幕では進化の歴史として微生物・魚・恐竜あるいはシダ植物・生まれた赤子が初めて見る光あるいは人間のその後のような情景が表現されている.

youtu.be

また,これを元にした楽曲もあり,凋叶棕というアーティストも同名の楽曲を出している.これは主に1番と2番からなる曲で,声の綺麗さと共に歌詞が魅力的なのでとても好き.1番では人間として叡智を手にするまでの進化の歴史,2番では人間の残虐な歴史についての歌詞で,テンポがよくほどよくチャカポコしているのでキチガイ地獄外道祭文みがある.

youtu.be

あとはこのテーマに感銘を受けて以前勢いでテーマとして胎児の夢と2,3つの要素を混ぜつつ日常テイストのしょうもない二次創作の文字を書いたりした.これは駄文なのでいつかいい感じにしたい.

godiva-frappuccino.hatenablog.com

終わりに

ドグラ・マグラを読んでチャカポコしよう!