人間のあるべき姿の探索

思索・人形・エンジニアリング

人形なる為の軌跡

人形になるぞ!

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 ということで約一年間、ひたすら作業をしていました。今年の一月頃から技術的な検証を本格的に始め、3Dモデルを用意し、内部に仕込む機構をモデリングする術を身に着け、粘土を触り、コードを書き、と色々やってきました。夏頃に一度大きな方針転換をしてその時ほぼ完成していた人形を諦め、仕切り直しとして一から設計をし直しました。当時は気が狂うかと思いましたが正気のまま立っているので俺の勝ちです。そして、冬になり、完成に向けて進捗は積み重ねていたものの、まだ検証項目が残っており、いつ完成するのか心配でした。そこで、11月の中頃に、アドベントカレンダー企画を思いつきました。今自分がやっていることを分解して、自分の作っているものは何であるか、どういった意味があるか、ソフトウェアやハードウェア、そしてもちろん人形の面から考察することにしました。そして、12月25日をもって完成とすることで締め切りを設けようということにしました。

 結論から言うと、下地材の塗装及び本塗装としての色塗り、そしてウィッグの調達が間に合いそうにないのですが、プロジェクトスコープの調整として一旦年末年始の休暇にタスクをずらし、MVPとして人形になる為の器の肉体及び機構、ソフトウェアができていることを目標に据え直し、作業をしていました。アドベントカレンダーが一人で埋まると面白いですね。僕はしんどいです。

 せっかくなので、振り返っていきます。

 と言ってもまずは昔に遡ります。2018年、当時大学の学部三年生のころにArduinoなどの電子工作系の諸々を授業で触る機会があったり、ロボット実験としてロボットを半年で作るイベントがありました。当時はほとんど貢献できておらず今でも申し訳ないのですが、そういった中でロボットに興味を持つと同時に、人形への興味がありました。その後、しばらく京都に移住していたのですが、その前後で頭部を動かす仕組みのようなものは検討していました。眼球をモータで動かしたり、頭部を紙粘土で作ろうとしたり、とやっていました。大学の3Dプリンタを使用して眼球を動かすモデルを印刷しようとして設定ミスで失敗したり、といったこともありました。方法論が分からずもがいていましたが、こういった下地があったことは明記しておきます。

 藤堂さんのSEERにも影響を受けていました。同じことをしたいわけではありませんでしたが、人に合わせて動いてくれるリアルな造形には惹かれるものがありました。

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 一番古いやつ。

 2020年11月から人形教室に通って一人作ったのち、魍魎の匣の加菜子に憧れて、再度人形にモータを仕込み始めます。当時はモデリング術などはなかったので、粘土造形した後にサーボブラケットを無理やり差し込むという形式をとっており、精度や安定性に欠けるものでした。そのタイミングで、やっぱり機構はきちんと3Dモデルなどを用いて作らないといけないと感じましたし、自分で機構の形を変えたいときは尚更必要だと感じました。

 機構を3Dプリントする…という試みについては、2022年7月頃から始めました。というのも、二年ほど前に一度安価なプリンタを中古で購入していたのですがあまり様子が芳しくなく、このタイミングで再度良いスペックのものを購入して手軽に試せるようになったことが大きいです。途中で諦めましたが、3DモデルをUnity上に配置してモータへの命令をArduinoとUnityアプリケーションの双方に送ってデバッグを行う試みもしようとしていました。この辺りの実装方法はいつか覚えますが、しばらく先になりそうですね…

 時が経ち、人形になる…という最初の話に戻ります。2022年夏ごろ、映像のリアルタイム転送に興味があったので、AzureというクラウドサービスによるWebRTCのAzure Communication ServicesでZoom会議の様な形式で映像をAndroidに転送しつつ、Android端末の加速度センサをロボットに送れるのではないか?と気づき、試していました。結論できたのですがHMDとして扱うにはAndroid端末は取り回しが悪いことなどに気づき、一旦取りやめとなりました。

 そして本題、2022年末に、人形になるぞ!と思い、ヘッドマウントディスプレイを開発用に購入しました。実際には年末に動作確認をしてほぼ1月1日くらいから開発を始めたのですが、1月はそういった技術的な検証をやっていました。ここでUDPで映像転送をしたり、基本的なVRアプリケーションのSDKの扱いを覚えました。もう数か月埼になりますが、映像転送及びロボットへの姿勢転送をヘッドマウントディスプレイで行うアプリケーション自体は一通りできていました。本業がこっちで良かったと思いつつ、UnityでVRアプリケーションを作るのは簡易的なアプリケーションでも大変だと実感しました。

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 2月から機構及び造形のことを考えていました。当時は3Dモデリングをしてある程度精密な寸法をとらないとサーボモータを仕込めないことには気づいていたのですが、モデリング力の欠如から既存のモデルを購入して使用する選択肢をとりました。ただ、それでも実際にうまく動作する為に…というので印刷方法含めて悩みました。機構や内臓の納め方もだいぶ苦労し、3か月くらいかかってファーストモデルを印刷して、そこから5月、6月くらいまでひたすら印刷しなおして動かしての試行錯誤になります。内臓、PCや制御用のマイコンの選定からだったのでかなり苦労しました。

 4,5月頃に最終的に収まる形を見つけたものの、ただ上からかぶせるだけだと機構がずれてしまうとか、諸々考慮する必要がありましたし、胴体の印刷方法はかなり悩み、結局分割して印刷した後に接着剤で貼り付けました。最初は全部印刷するのは難しいと思い、張り子の様に骨組みだけ印刷する試みを3月頃にしていたのですが、これはこれでうまく骨組みを組み合わせることができず、数cm単位でのずれが生じてしまったため諦めました。分割してパーツを印刷する術はこの時に身に着けました。

 そして、5,6月は内部の機構を作りこみながら粘土を巻いてました。一応基本的な形は印刷するものの、表面は塗装する関係や微調整の為に粘土を使用する予定でした。7月に色々あってうまくいかないことに気づいて挫折して、仕切り直しを…といった流れになるのですが、一通りの形ができていました。概念実証を常にやっていたので、できるかできないか分からないストレスが常に、というかここ最近までありました。よく見るとゆがみが生じる形になっている機構とかも懐かしいです。

 7月10日頃に仕切り直しをして、まずはタスク一覧を洗い出しました。プロジェクト管理というのはやった方が良いです。造形の仕方もあくまで粘土造形をメインにして3Dプリンタは粘土を貼る型にのみ使用する、といった方針で7,8月辺りは進めていきました。しばらくは型取りの為の試行錯誤をしていました。PoCも慣れてきました。

 3Dプリント品を型として使うにあたり、薄いフィラメントに粘土を巻いて歪み具合を見たり、と言ったところから始まりました。当然、等身大のトルソーだと分割印刷の技術も必要になってきます。

 9,10月は頭部と胴体のモデリングをして、そこに機構を埋め込んだり粘土部分と機構のインターフェースを考えていました。ちゃんとした人体の3Dモデリングは初めてだったので、気合を入れて何とかしました。結局気合ですね。インターフェースになる金属部品の調達はホームセンターに行ってひたすら金具をグッと睨む日々があったり、実現可能な方法が幾らかあるお陰で自分が取れるベストな方法を見出すのに時間をかなり使いました。最終的に没になったものもありますが、金具を埋め込むために固定用器具を用いて粘土の中に金属部品をある程度正確に埋め込むワザとかも編み出しました。これについては最終的に手で微調整して固定したんですが…

 そして、等身大レベルの造形をやるのも初めてだったので、粘土の収縮具合に苦労させられたりしながら、胴体を作っていきました。同時にインターフェースとなる金具を仕込んだり、機構の改良を図っていました。

 10月の中頃から、造形作業に入ります。見ての通りローポリゴンモデルで胸も盛っていないので、骨や筋肉、脂肪を盛っていく作業はすべて粘土で造形力に任せてやることに決めていました、造形は一番苦手な作業の一つですが…もちろん頭部の造形もやりつつ、だんだんと肉体の形が見えてきます。等身大のトルソーを作る中で、やっと肉のつき方とか意識し始めました。次作る子はもっと解剖学的に正しくやっていきたいですね。

 12月になり、アドベントカレンダーを書き始めました。実は、インフルエンザとその後の喉の不調で2週間近く作業ができず、そういった経緯もあり造形は何とか進めつつも塗装周りをMVPから外す決断をしました。そういった中で、残りのPoCが必要であった眼球周りの構造決定や眼球の作成、映像転送方式の決定といった残りの部分をやっていました。顔面、特に瞼の辺りが個人的には気に入った形になってきました。こういうのは引きで撮った方が遠近法の関係でシュッとした顔立ちにというか肉眼で見たものに近い形で見えますね。造形もけりをつけ、一旦納得のいく形までもっていきました。後はデモ動画を撮影できればアドベントカレンダーの目標は達成し、年末年始に色付けやウィッグ探しをして人形全体としても完成となります。

 完成まで頑張っていきましょう。