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思索・人形・エンジニアリング

球体関節をモータで動かす:人形の関節を考える

人形になるぞ!

godiva-frappuccino.hatenablog.com

 ハンス・ベルメール以来日本でも球体関節人形が浸透しており、今でもたくさんの方が作成しています。そもそも球体関節が用いられるのはなぜなのか、造形美のほかに、可動域の面での問題も考慮してそれをモータで動かすための考察をしていきます。

機構学的な関節

 基本的なアイデアを列挙します。機械が運動をする機構を構成するとき、その運動はすべりまたはころがりの二種類に分類されます。そして、運動は二つの部品の組み合わせが作る運動となり、その組み合わせを対偶と呼びます。それらを要素と呼び、面で接触する対偶を面対偶、天や選で接触する対偶を線対偶と呼びます。

 イメージがしやすいものとして、面対偶としてはねじ機構はらせん対偶と呼ばれ、回転しながら直進していき、ある面の上に乗ったもう一つの面が滑る場合は平面対偶となります。球対偶が球状の要素が眼窩の様なくぼみに入り、ころがるように運動します。線対偶としては、球体が円弧状の溝を滑ったり、円柱が平面状を滑る場合にその接面が線状になります。

 そして、それらには自由度の概念が適用され、これは対偶の運動の度合いを表します。例えば四角形の溝に挟まった四角柱は一方向に前後することができ、この自由度は1となります。これが円形の溝にはまった円柱であれば、前後するだけでなく、円周を回すことができ、2自由度となります。そして、平面対偶はx軸及びy軸に動かしたうえで、それを面に平行な方向に回転できるため、3自由度となります。自由度は直進と回転の両方を表します。3次元空間のモデリングをする場合は、自由に動ける一つの物体の塊は6自由度(x,y,z軸の直進及びyaw, roll, pitch軸の回転)で表現されます。つまり、対偶の組み合わせ方によって自由度が減ることになります。また、その自由度が確保されていても、自由に動かせるかどうかはモータで動作を与える為の仕組みを組み込めるかどうかに依存します。

人間の関節

人間はその体をある程度自由に動かすことができますが、基本的には筋肉及び腱によって接続された骨が筋肉の収縮によって動くものになります。とはいっても関節もとい骨と骨の繋がりにはいくつか種類があり、繊維製の連結として頭蓋骨の様な動かないものや、軟骨性の連結として脊髄のような大きな運動はしないものもあります。そして、考える対象となるのが可動関節であり、これが一般的にイメージする関節となります。

 可動関節にはいくつかの種類があり、部位と共に紹介すると、まず肩関節や股関節は球関節となっており、全方向への自由な運動が可能です。これが3自由度です。そして、肘やひざ関節は蝶番関節として、一方向に回転します。とはいえ、腕はもっと自由に動くイメージがあります。三つ以上の骨からなる関節は複関節と呼ばれ、先ほどの蝶番関節に加えて車軸関節があることによって肘から先を回転させたり屈伸させることができます。車軸関節は首関節にも使われている、一方向への回転を担います。他には楕円関節と呼ばれる関節も存在し、手首や足首は上下運動と共に制限のある左右運動が可能です。楕円状をすべることができるので2自由度確保されますが、ころがり運動はできないんですね。確かに手を回してみると、肘の車軸関節を用いて回転していることがわかります。

人形の関節を考える

 ※芸術面での考察ではなく、機構としての考察が中心となります。

 人体を構成する関節を見てきて、やはり一番自由なのが3自由度とれる球関節です。人形は一般的には外骨格の為、内部に骨を持つものとは違い、その点で動き方と関節の見え方の双方の兼ね合いを考えてやる必要があります。

 まず、首関節は人間の場合は車軸関節と他の関節の兼ね合いによって3自由度分の動作を可能としていますが、これを球関節で表すことによって、その動きの自由度を確保しています。これはとても自然ですが、例えば肘は1もしくは2自由度ですが、これも球体関節で表現されます。回答としては、恐らく動作の作り方としては3自由度表現できる関節はさらに制約を加えることで1及び2自由度も表現できるからという点があります。勿論アートとしての考え方にリアリズムよりもその思想から球体関節を好んでいる点もありますが…

 そして、球関節のメリットとして、ころがり運動をした際に、その接面の形が保たれます。というのが、人間の場合は皮膚が伸びるので良いのですが、剛体を動かすとどうしても隙間がみえてしまうことがあり、美しくありません。しかし、真球はその半径がどの点においても一周である定義より、どのようにもう片方の要素にはめても外から見た形が変わりません。これが剛体の外骨格である人形にポーズをつける際に都合が良いと考えられます。

 もちろん球体関節のデメリットもあり、リアリティを追求した際に元々の人体の表面には球体構造が存在しないことが問題となります。例えば腹部球体を考えると、リアリティを考えると楕円球を用いて腰や胸と腹部の接続部分を滑らかにしたいですが、可動域が犠牲となり、ころがり運動として上体をひねる動きが制限されます。逆に、真球を用いることでより自由に動かすことができますが、やはり接続部のボディラインが損なわれてしまいます。この場合、敢えて選択したボディラインに魅力を感じさせる必要があります。

というわけで、モータで球体関節を動かすための方法を引き続き考えていきます(続く)